今年のノーベル文学賞を受賞した日本生まれの英国人作家カズオ・イシグロ氏の代表作『The Remains of the Day(邦訳:日の名残り)』の韓国語版の書名は『残された日々』だが、この訳が間違っているとの指摘が朝鮮日報に掲載された。『あの日の痕跡』『あの日の残影』『あの日の記憶』『あの日の遺物』などと訳す方が正しいとの意見だった。

しかし筆者がさまざまな資料を検討し、同書の内容をよく知る英国人などから意見を聞いたところ、『残された日々』という訳は完璧とは言えなくとも、決して間違ってはいないことが分かった。

まずこの小説のストーリーについて英語版のウィキペディアには、ある英国貴族の執事だった主人公スティーブンスが「小説の最後に自らの余生、つまり新しい主人ファラデイ氏の世話をすることと、自らの残された人生に没頭する」と解説されている。

また筆者が知るある英国人教授は『the remains of the day』という言葉について「『the rest of his life(彼の残された人生)』と同じ意味」と説明した。

英国文化の海外窓口となっている駐韓英国文化院のマーティン・フライヤー氏も「the remains of the day」が意味する内容について「主人公の残された人生と、登場人物たちが生きるより大きな社会から残されたもの」と解説し、さらに「第2次大戦が始まる前の英国とよーろっぱ欧州における激動期が背景だった」という説明もあえて加えていた。

また「remains」に劣らず重要な鍵は「the day」だ。これを単に「あの日」と訳してしまうことこそ誤訳だ。ここでは「主人公の人生」と「登場人物たちが生きた時代」を意味する言葉として使われている。

フライヤー氏は「remains of the day」には「人生のたそがれ」という意味のほかに「廃虚となった建物や遺体といったこの単語の別の意味も圧縮されている」と説明する。また残された時間を暗示する時計の写真が初版の表紙に掲載されていることも教えてくれた。

そのため「remains」という言葉はその二つの意味、つまり「残されたもの」と「廃虚」の双方の意味を絶妙に生かした一種の「しゃれ」「戯言」であり、フライヤー氏は韓国語を知らないため、これらのニュアンスが韓国語でうまく伝えられているか判断しづらいという。だとすれば「残された日々」は決して誤訳とは言えないが、かといって完璧な訳でもない。

なぜなら韓国語にこの二つの意味をどちらも生かす言葉はないからだ。翻訳は困難な作業であり、場合によっては次善で満足せざるを得ないときもあるのだ。

ソン・ウヒョンさん(翰林大学国際学部客員教授)

http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2017/10/27/2017102702039.html