国連教育科学文化機関(ユネスコ)は31日、旧日本軍の従軍慰安婦関連資料の「世界の記憶」(世界記憶遺産)への登録判断を延期した。日韓関係の新たな火種となる事態はひとまず回避したものの、韓国政府が登録を後押しする姿勢を示したことへの不信感が日本政府内にはくすぶる。

延期決定を受け、菅義偉官房長官は記者会見で「適切な対応がされた」と評価した。政府内には「登録されればユネスコへの分担金支払いは停止する」などと警戒の声があっただけに安堵が広がった。

ただ、日韓関係への先行きには影を落とす。ユネスコに関連資料を申請したのは中国や韓国の民間団体だが、韓国政府はこの間、登録をあからさまに後押しする姿勢を見せてきたからだ。

韓国外務省は31日、ユネスコの判断について「遺憾を表明する」との報道官論評を発表。申請した民間団体の努力を尊重し支持する意向を示し「今後も慰安婦資料が客観的かつ正当に評価されるよう可能な外交努力を続けていく」と強調した。

慰安婦問題をめぐる2015年の日韓合意は「国連など国際社会で慰安婦問題について互いに非難、批判することを控える」とうたった。外務省幹部は「韓国政府の姿勢は日韓合意に違反しており、到底受け入れられない」と指摘している。


2017/11/1付日本経済新聞 朝刊
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO2294231031102017PP8000/