従軍慰安婦問題を巡る2015年の日韓合意は、信頼関係構築の基盤となるものだ。誠実な履行が欠かせない。
 
合意で、日本は軍の関与と政府の責任を認め、元慰安婦を支援する韓国の財団に10億円を拠出した。ソウルの日本大使館前に設置された少女像も、韓国側が解決に向けて努力すると約束した。
 
両国は「最終的かつ不可逆的な解決」を確認したのであり、その意味は極めて重い。
 
ところが、韓国では朴槿恵前大統領の罷免を受け、合意の再交渉を公約した文在寅大統領が近く、新たな方針を策定する。
 
文氏は4日、元慰安婦を大統領府に招いて、昼食会を開いた。日韓合意で慰安婦問題を解決できないとの考えを改めて示し、陳謝した。一方で、日韓の「公式的な合意という事実も否定できない」とも述べた。
 
新方針に元慰安婦らの意見を反映させる考えのようだが、内容次第では日韓関係が悪化する恐れがある。
 
韓国が昨年末にまとめた合意を検証した報告書は、朴氏周辺が主導した交渉に関して「被害者の意見を十分に集約しなかった。政府間で解決を宣言しても問題再燃は避けられない」との見解を示した。
 
これを受け、文氏は「手続き的にも内容的にも重大な欠陥があることが確認された」との声明を出した。
 
日本が合意の履行を求めたのは当然である。河野太郎外相は、韓国が報告書に基づいて合意を変更しようとすれば「日韓関係はマネージ不能となる」と警告した。
 
報告書は、日本政府が拠出した10億円は「客観的な算定基準」に基づかず、元慰安婦らの意見が反映されなかったとも指摘している。
 
だが、日本の拠出金からの現金支給では、生存している被害者の約7割が受け取るか、受け取る意思を示した。
 
受給を拒否して強硬に合意破棄を求める被害者もおり、反応はさまざまだが、既に合意は実行に移されている。
 
韓国側が合意の非公開部分を明らかにしたのも問題だ。
 
この中で、日本側は合意への反発が予想される「韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)」などの説得を韓国側に要請している。第三国での少女像設置の動きは「不適切」とも主張した。韓国側は、説得要請を事実上受け入れて、海外での像設置も支援しないと確認した。
 
一方的な公開は、外交交渉のルールに反する。
 
今、大切なのは北朝鮮の核・ミサイル開発が大きな脅威になる状況で、慰安婦問題が日韓関係全般に悪影響を与えないようにすることだ。
 
日本が議長国となる日中韓首脳会談も重要である。4月の東京開催を中韓両国に打診し、実現を目指す構えだ。
 
文政権も、歴史問題と安保・経済などを分離する「2トラック」路線をとっている。
 
韓国は信義を守り、関係改善の道を探ってほしい。


1月6日付
http://www.topics.or.jp/editorial/news/2018/01/news_15151989855383.html