近年中国はアフリカ支援に力を入れており、インフラ設備などに多額の援助を行っている。
エチオピアのアジスアベバにあるアフリカ連合(AU)の本部ビルも、中国の資金でできたものだが、フランスのル・モンド紙が、このビル内で中国が盗聴行為を行っていたと報じた。
中国側は記事の内容を否定している。

◆資材も家具も中国から。盗聴、データの転送が可能に

ロイターによれば、このニュースはル・モンド紙が匿名のアフリカ連合(AU)の情報源から入手したものだという。
AU本部ビルは、中国が出した200億ドル(約2.2兆円)の資金で中国によって建設された。
2012年に完成し、アフリカへの影響力を持ち天然資源へのアクセスを得るという中国の意志の象徴とみられた。

ル・モンド紙の報道を引用したディプロマット誌によれば、ビル建設の資材は中国から輸入されたもので、オフィス用家具まで中国が供給していた。
盗聴が発覚したのは2017年の1月で、調べると壁やデスクの下からマイクが見つかったという。

さらに、AUのコンピュータ・ネットワークまで中国が手配していたため、上海にあるサーバーに毎夜データが転送されていた。
結局5年にわたり、中国はビル内から取れる重要なデータにアクセスしていたことになる。
盗聴疑惑発覚後、AUは新しいサイバーセキュリティ対策を導入し、新品のサーバーを設定するという中国の申し出を断ったということだ。

◆中国は否定。AU側からの批判もなし

中国とアフリカの関係者は、ル・モンド紙の報道を否定している。
AUの中国大使、クアン・ウェイリン氏は、記事は「馬鹿げており」「不合理」だと述べ、中国とアフリカの良好な関係を良く思わない西側の意図によるものだとしている。
AUの議長でルワンダ大統領のポール・カガメ氏は、この件は知らなかったと述べつつも、スパイ活動は中国のお家芸ではなく世界中がやっているとし、AU本部ビルでのスパイ活動に関しては心配していないと発言した(ロイター)。

実際にル・モンド紙も、中国だけでなく、イギリスもフランスも過去にAUをターゲットにしてきたと指摘しているという。
同紙の取材を受けたある外交官は、少なくとも中国はアフリカ諸国を植民地にしたことはなく、現在経済的に支援しているのだから、報道されているスパイ行為を気にしすぎる必要はないと述べたらしい(ディプロマット誌)。

◆中国の影響力は絶大。「一帯一路」への懸念も

しかしディプロマット誌は、ル・モンド紙の報道が正しいとすれば、AU以外にも、アフリカの国々が危険にさらされていることになると述べる。
すでに、ジンバブエ、コンゴ、エジプトなどでは政府関連の施設が中国によって建設されることが決まっており、他のアフリカ諸国にも中国が建てた議会庁舎などがいくつもあるからだ。

2017年のデロイト・アフリカ建設トレンド報告によれば、中国のプロジェクト受注は、すでに民間企業をしのぐ勢いだという。
特に東アフリカでは、4件に1件のプロジェクトが中国の資金で行われ、建設に関しては半分以上が中国によるものだという(ディプロマット誌)。

ウェブ誌『クオーツ』は、中国の援助が独裁国家の下支えになり、安っぽい道路やインフラを中国人労働者に作らせ、中国が必要とする天然資源の出所となる国にだけ集中するという批判があると述べる。
よって、今回の盗聴疑惑で、中国とアフリカの関係がギクシャクすることもあり得るとする。
しかし同時に、官僚、学生、ビジネスマンをトレーニングや教育のため中国に呼び寄せ、次世代のアフリカの指導者を育成しているとも述べており、中国の影響力の排除は難しいとも見ている。

ディプロマット誌は、「一帯一路」の名のもとに、中国がユーラシアでさまざまな建設プロジェクトの援助を増やそうとしていることを上げ、参加国が何から何まで中国製を受け入れれば、スパイ活動に利用されかねず、今後問題になるだろうとしている。
中国に政府施設や他の重要なインフラを作らせることに、隠れたコストはないのか。
ル・モンド紙の報道は、アフリカと他の国々に、この疑問を呈するものだとディプロマット誌は述べている。

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