北原みのり「目が覚めるようなネトウヨ」〈週刊朝日〉

作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は、「ネトウヨ」について。

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最近、本屋に入るたび、ケント・ギルバート氏に出会う。ベストセラーコーナーには大抵、ケント氏の本が存在感たっぷりに並べられ、力を見せつけられているような気持ちになる。

45万部突破!と宣伝されているケント氏の本を、ぱらぱらとめくってみた。日本人は凄い、日本人は特別だ、ということが言葉を換えて様々に書かれているが、例えばそれは、日本人はまず他人のことを考える美徳があるから、韓国や中国よりもノーベル賞を受賞しているんですとか……で、目が覚めるようなネトウヨ本だ。

お茶の間の人気者だったケントが、今のケントになるまで、何があったんだろう。報道によれば、ビジネスの失敗など経済的に苦労したらしい。人に騙されたこともあったともいう。そんな不幸を乗り越えて、「日本人は凄い」と言えばチャリーンと入ってくる金脈や、「よく言った!」と褒めてくれる仲間に出会えたら……人は書いてしまうものなのだろうか、ネトウヨ本を。ケント氏だけじゃない。多少は教養があり、ある程度は歴史の知識があり、人権感覚を当然持っているであろうと期待される立場の人が、軽やかに韓国や中国への侮蔑を語り、日本が世界の中心にあるかのような発言で喝采を浴びている。ちょっと前までそんなネトウヨ村はずっと小さく、表で語る人間も限られていたはずなのだけど、今じゃ人材も経済力も勢いを増している。私がネトウヨ国で息を潜めて暮らしているような気持ちだ。

国際政治学者の三浦瑠麗氏のテレビでの発言が批判を浴びている。瑠麗氏によれば、今、ソウルや日本には一般人を装った北朝鮮のテロリスト分子が潜んでいて、「大阪がやばい」ということらしい。

根拠ゼロの乱暴な物言いは当然、激しい批判を浴びた。このようなデマに殺され、今も痛む人の存在が全く見えていないことに驚くが、「このレベルの発言が難しいとなれば、この国でまともな安保論議をすることは不可能です」と瑠麗氏は反省する気配もない。まるでタブーに挑戦し、学者としての使命を負っているかのようだ。

瑠麗氏を見ていると、ケント氏が小物に見えてくる。ケント氏にはお金や友だちが欲しいんだろうと思わせる隙があるが、瑠麗氏は何を目指してるのか分からない怖さがある。だいたい本気で安保考えてる人が、「大阪がやばい」って、軽すぎるでしょ。

瑠麗氏といえば、首を傾け、上目遣いで相手をねっとり見る媚と、批判的な意見には、にたにた笑い、いなす無礼の絶妙なコンビネーションが印象的だ。絶対に自分は間違えないという傲慢と、媚のちぐはぐさは、この国の超高学歴女性に時々見うけられる幼稚な全能感に見える。全能感があるからこそ、思想的には風次第で右にも左にも軽やかに飛べる。欲しいのは自分が放つ影響力だけだから。そんな瑠麗力、ネトウヨ国家とは、とても相性がいいのだろう。

※週刊朝日  2018年3月9日号

ソース:週刊朝日 3/2(金) 16:00
https://headlines.yahoo.co.jp:443/article?a=20180228-00000022-sasahi-soci
北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
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