政府の慰安婦「強制連行」答弁動かした民間の力
http://www.sankei.com/premium/news/180409/prm1804090005-n1.html

政府は3月28日の衆院外務委員会で、自民党の杉田水脈(みお)氏(50)に対し、
平成28年2月に行われた国連欧州本部(スイス・ジュネーブ)女子差別撤廃委員会の対日審査で慰安婦の「強制連行」などを否定した外務省・杉山晋輔外務審議官(当時、現駐米大使)の答弁が政府見解だと明確にした。
杉山氏の答弁を引き出すきっかけを作ったのは、27年7月の国連での杉田氏らのスピーチだった。

 政府代表団として女子差別撤廃委員会に出席した杉山氏の答弁は、慰安婦の「強制連行」を裏付ける資料はなく、強制連行説は「慰安婦狩り」に関わったとする吉田清治氏(故人)による「捏造(ねつぞう)」で、
朝日新聞が吉田氏の本を大きく報じたことが「国際社会にも大きな影響を与えた」という内容だった。朝日新聞が事実関係の誤りを認め、謝罪したことも説明した。

 「慰安婦20万人」についても朝日新聞が戦時中に労働力として動員された女子挺身隊と慰安婦を混同したことを認めたと述べた。

伏線にあったのは前年の27年7月27日に国連で開かれた女子差別撤廃委員会準備会合だ。
委員会メンバーと非政府組織(NGO)の対話の場である準備会合で、当時は衆院議員ではなかった杉田氏と、民間団体「なでしこアクション」の山本優美子代表が慰安婦の真実を語った。
その内容は委員たちが聞いたことのない話だった。

 杉田氏はフランス語で約2分間、次のように訴えた。

 「『女性たちを狩り出して連行した』という話は吉田清治という作家のでっち上げが基となっている。朝日新聞はこの作り話を歴史的な証拠として32年間の長きにわたり、国際的に日本の名誉をおとしめる報道をし続けた」

 「しかし、26年8月、朝日新聞が吉田の証言が全くの虚偽であったことを認め、それを記事として周知した。現在、世界中で日本は女性を性奴隷にしたと思われており、
それはナチス・ドイツのホロコーストに匹敵する重大な犯罪だと宣伝されている。これは全く事実無根であることを私は大きな声で断言する」

 続いて山本氏が英語でスピーチした。

 「日本の戦争関係の請求・賠償は国際条約で解決済みだ。それにも関わらず、いまだに人権関連委員会の多くは日本に謝罪と賠償を求めている。
これが日本の名誉を傷つける政治的キャンペーンにつながり、日本人に対する人権侵害が起こっている」

強制連行を否定する2人のスピーチに、委員からは「自分たちが知っている慰安婦問題とは異なる意見だ」との声があがった。「初めて聞いた」と話す委員もいた。

 その後、女子差別撤廃委員会は日本政府に追加質問した。「委員会は(慰安婦が)強制的に連行されたことを裏付ける証拠はないとの最近の声明を把握した。この情報についてのコメントを」との要求があり、杉山氏の答弁につながった。

 筆者は当時、ジュネーブで女子差別撤廃委員会を取材し、28年2月17日付の産経新聞朝刊1面トップで「強制連行説は『捏造』」「20万人、朝日が混同」との見出しで掲載した。
杉山氏の答弁に関しては「日本政府が国連を舞台として“歴史戦”で反転攻勢に出たことは、遅きに失した感があるものの評価できる」と書いた。

 今でも杉山氏が表明した日本政府の見解は評価する。しかし、強制連行説や20万人説が国際社会に広がった責任を政府が朝日新聞になすりつけた感は否めない。
日本政府がかつて展開した謝罪外交は朝日新聞の主張と軌を一にしていたと思われても仕方ないほどだったからだ。
ここ数年、民間から慰安婦問題などに関して国連で日本をおとしめる動きに歯止めをかけようとする動きが活発化した。「日本のために」との思いを持つ多くの人たちの努力で、日本政府の国連での対応も変わってきた。

 しかし、慰安婦をめぐる誤った解釈は事実として国際社会で受け止められている。こうした状況の根本にあるのは、慰安婦募集の強制性を認めた5年の河野洋平官房長談話だ。複数の日本政府関係者も「元凶は河野談話」と証言する。

 政府が一朝一夕に河野談話を破棄することはないだろう。それでも、談話破棄につながるように国内外の環境を作ることは不可能ではない。
杉山氏が答弁した日本政府の見解は、民間の取り組みがなければ引き出せなかった。政府を突き動かすような動きが民間からもっと出てくることに期待したい。