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 1923年9月の関東大震災直後に起きた朝鮮人虐殺をたどった本「九月、東京の路上で」(ころから刊)を原作にした同題の演劇が、21日から東京都内で上演される。劇作家の坂手洋二さんが演出を手がける劇団「燐光群(りんこうぐん)」の新作だ。

 本は、ノンフィクション作家の加藤直樹さんが2014年に出版した。生まれ育った東京・新大久保で、在日コリアンへの差別を扇動するヘイトスピーチのデモに抗議する行動に参加したのがきっかけだった。虐殺現場の今の写真を多く載せ、事件は遠い昔のできごとではないと強調した。

 昨年には小池百合子・都知事が、市民団体が開催している朝鮮人犠牲者の追悼式に、歴代都知事が行ってきた追悼文送付を中止した。加藤さんらは抗議し、18年には追悼文を出すよう求める声明を発表した。

 坂手さんも賛同人として名を連ねた。米国の人種差別を背景に起きた犯罪(ヘイトクライム)の翻訳劇を手がけた経験もある。舞台化を思い立ち、加藤さんの本を手に関東各地の虐殺現場を訪ね、「震災で無力感や不安にとらわれた人々が、強いものに依存して少数の『異邦人』をたたく心情は現代に通じる」と感じた。

 「加藤さんの思索をたどり、95年前の事件を追体験してほしい」と考え、本の「まえがき」の朗読から演劇を始めることにした。

 上演は8月5日まで、東京都世田谷区の「下北沢ザ・スズナリ」で。公演後に加藤さんや映画「焼肉ドラゴン」監督の劇作家・鄭義信さん、元文部科学省官僚で映画評論家の寺脇研さんらのゲストが登場し、それぞれ坂手さんと対談する日もある。問い合わせは劇団燐光群(03・3426・6294)、サイトは(http://rinkogun.com)。(編集委員・北野隆一)


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 〈関東大震災と朝鮮人虐殺〉 1923年9月1日、相模湾周辺を震源とするマグニチュード7・9の巨大地震が起き、火災などで約10万5千人が死亡したとみられる。「朝鮮人が略奪や放火をした」「井戸に毒を入れた」などの流言が広まり、住民らが結成した「自警団」などが朝鮮人らを殺害する事件が多発した。

 政府の中央防災会議は2009年までに報告書をまとめ、「官憲、被災者や周辺住民による殺傷が多発した。武器を持った多数者が非武装の少数者を殺害する、虐殺という表現が妥当する例が多かった。対象は朝鮮人が最も多かったが、中国人、内地人(日本人)も被害にあった」と書いた。犠牲者数は震災全死者の「1〜数%」と推定。千〜数千人にあたる。