◆「ヘイト」深刻 相談はゼロ

◇対応窓口設置1年 法律、強制力なし 府「対策に限界」

民族差別などを助長するヘイトスピーチ(憎悪表現)に対応する相談窓口を府が設置して1年。
全国初の取り組みとして注目されたが、インターネット上や街宣活動による被害が続くにもかかわらず、相談はまだ1件もない。

「全く電話がないとは、想定外だった」
京都弁護士会の浅井亮副会長は読売新聞の取材にそう話した。

府は2017年7月、相談窓口を設置した。
月2回の電話相談のほか、対面でも相談でき、人権問題に詳しい弁護士から助言を受けられる。

ただ、16年6月に施行されたヘイトスピーチ対策法では、相談者から要請があっても府が路上での街宣行為を中止することや、罰則を与えることはできない。
「結局、自分で訴訟を起こすしかない」(弁護士)ため、相談してこないとみられる。

府は、「在日特権を許さない市民の会(在特会)」による京都朝鮮第一初級学校前での街宣活動(09年、10年)をきっかけに対策に本腰を入れ始めた。
だが、効果が出ているとは言い難い。

14年には、ヘイトスピーチなど人権侵害の疑いがある動画や投稿が見つかれば、京都地方法務局を通じてプロバイダーやウェブサイト管理者に削除を要請する仕組みを始めた。
要請件数は17年度だけでも27件に上ったが、実際には元を削除しても複製が拡散し、消しきれないケースが多い。

今年3月には、府民ホール(上京区)など公共施設の利用を規制する指針を施行した。
ただ、道路上で行われる街宣行為を制限する手立ては、事実上ない。
府人権啓発推進室の担当者は「法律は一定の抑止にはなるが、実際にデモを止めることはできない。自治体ができることに限界がある」と苦悩をにじませる。

インターネット上には、当時の街宣だけでなく、在日コリアンらが多く住む大阪・鶴橋や、東京・新大久保などでその後繰り返された街宣の動画も数多く残る。
昨年4月には、京都市南区の公園で在特会の元幹部が「この朝鮮学校は日本人を拉致しております」などと、拡声機を使って街宣する様子をネット上に投稿した。

デモやインターネットへの投稿の制限は、憲法が保障する表現の自由を侵すことになるとの意見もある。
ただ、ヘイトスピーチに詳しい金尚均・龍谷大教授(刑法)は、「現状では、被害を受けた当事者が時間をかけて対応するしかなく、規定を設けて街宣行為を禁止したり、投稿や閲覧を制限したりする必要がある」と指摘する。

■写真
ヘイトスピーチに関する相談ができる府の人権特設相談室(上京区で)
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読売新聞 2018年07月30日
https://www.yomiuri.co.jp/local/kyoto/news/20180729-OYTNT50034.html?from=tw