※続きです

■「京大を出たのに、鉄くず屋をやってるんだ」

――在日コリアンが厳しい境遇に置かれる、根本的な問題はなんでしょうか。

金 日本社会のシステムは、マイノリティにとっては過酷です。

韓国国籍保有者は、公務員であれば地方公務員の末席にしかなれず、大企業に入社できたとしても出世は望めません。
そのため、私の周囲の在日コリアンは外資系企業への就職者が圧倒的に多いです。
安定した職に就きにくいという問題は、昔のほうがひどかったです。
以前、コリアンタウンとして知られる大阪・生野の居酒屋で飲んでいたとき、団塊の世代の在日コリアンが「私は京都大学を卒業しているのに、鉄くず屋をやっているんだ」と吐露していましたが、日本社会にはいまだにマイノリティに対する壁があると思います。
しかし、そういうことは数値化されないため、差別の実態が理解されにくいのです。

――そこで、在日村プロジェクトを推進しているのですね。

金 私は在日2世ですが、私の世代はいいとして、4世や5世にまで悪い流れが続くのは看過できません。

もっと自由で緊急避難的な場所が必要だと考えて、在日村プロジェクトを提案しました。
目的は、まずは次世代の若者が言語・文化などの民族的素養を学べる学校を済州島につくろうというものです。
私は、準備実行委員会の発起人を務めています。
メンバーは趣旨に賛同した日韓両国の約20名で、建築家や行政書士、教育関係者らです。
朝鮮学校は統廃合が進み、韓国学校も増える余地がなく、在日コリアンの子弟は日本学校に行くしかないのが実情です。
外国人の多い大都市圏は理解者が多いのでまだいいのですが、問題は地方です。
在日コリアンの子どもたちが追い込まれ、置き去りになっています。

――その救済の舞台として、済州島を選んだということですね。

金 まず、済州島に農業試験場をつくります。

また、海外在住の韓国人などを支援する在外同胞財団(韓国外交部の下部組織)が本部を済州島に移管しました。
同財団が4000坪の土地を借りて教育施設の建設を進めており、完成の際には在日コリアンの子弟の入学も検討しています。
さらに、済州特別自治道(韓国の自治体)と協力する可能性もあります。
済州島には3つの大学がありますが、耽羅大学が廃校になり、跡地の活用に困っているため、その一部を使うという案もあります。
済州島で在日コリアンとしての存在感を示し、地域に貢献するため、日本食も取り入れた在日コリアンの食文化を提供する商業施設を建設する構想もあります。
それらが実現すれば、済州島の観光資源の一翼を担うことができると考えています。

■帰化しても何も変わらない、在日コリアンの現実

――壮大なプロジェクトですが、進捗はいかがですか。

金 農業試験場は今年中にスタートします。

学校関係では、すでに在外同胞財団などに間接的にアプローチしています。
また、済州島で3月に農業関係のセミナー、4月には古民家再生に関するセミナーを開きました。
実は、古民家再生の技術は百済から伝わったものが多いのです。
今はただの霊園となっていますが、大阪の富田林市新堂大工町はかつて百済の大工たちが移り住み、彼らが近畿圏内の寺院を建設していました。

――実現に向けた情熱は、どこから生まれるのですか。

金 並大抵の苦労ではないですが、危機感が原動力です。

在日コリアンを精神的に解放させたいというのが狙いです。
なかには「うちの子は大丈夫、帰化するから」と言う人もいますが、必ずしも帰化すれば大丈夫というわけではありません。
むしろ、何も変わらないことのほうが多いでしょう。
金教授も、「帰化しても精神的な状況などは変わらないだろう」と話しています。 
一方で、在日村プロジェクトについては、同じ在日コリアンから「こういう話は聞きたくない」という声もあります。
いずれにせよ、あくまで主人公は若者です。40代以上はサポート役に徹していきたいです。

※おわり〆