どちらの哲学が正しいかということを議論してもあまり有意義ではないかもしれない。答えは時間が経たないとわからないからだ。しかし、両国の経済の実力から見れば、韓国は、少し背伸びしているのに対して、日本は明らかに労働者に対する配慮が足りないと言って良いだろう。日本が、仮に韓国と同じように20年に全国平均で1000円の最低賃金を実現しても、それほど大きな負担にはならないはずだ。

 日本には、少なくとも、「企業が困るからトラック運転手の人権は守らなくて良い」という非人道的な政策を止めるくらいの余裕はある。格差拡大の問題を挙げるまでもなく、もうそろそろ、労働者中心の政策、つまり、「先進国」を目指す政策に転換する時が来ているのではないだろうか。

■優秀なアジアの若者が働きたい都市はドバイ、シンガポール、香港、ソウル

 韓国の最低賃金引き上げのニュースを見て、先日、アジアの高度人材を日本企業に紹介する事業をしている上場企業の経営者から聞いた話を思い出した。

「アジアの優秀な若者がアジアの都市で仕事を探す時の優先順位は、1位ドバイ、2位シンガポール、3位香港、4位ソウル、そして、その次が東京という順番です」

「日本のイメージは、一言で言えば、『低賃金ブラック』。でも、政府も経団連のお偉方もこれに気づいていません」

 東京がソウルの下と聞いて、やはり、そこまで来ているのかと思ったが、最低賃金に対する政権の姿勢から見ても、これは当然のことだなと感じる。

 底辺層の賃金で韓国に負け、高度人材でも、東京がドバイ、シンガポール、香港はもちろん、ソウルに負けるということでは、日本がこれからの世界の競争で勝ち抜くことは難しいと言わなければならない。

 先進国から事実上転落しつつある日本が、引き続き先進国としての経済社会を目指すなら、基本哲学として、企業よりも人を大切にする社会を目指すことが必要だ。それは、賃金の引き上げや労働時間などの条件を今よりも格段に向上させる実力のある企業を生み出すということでもある。

 早く基本哲学を転換しないと、本当に日本が先進国から転落することになるのではないか。その時は、意外とすぐそこまで迫っているのかもしれない。