コピペ対策
■「東海(日本海)」表記がネトウヨの逆鱗に触れた
そしてまた、いよいよ彼らの差別言動を抑制しようという広範な連帯や連携ができるのはずっと後年のことであり、実際、のちに続々と公に提起されることとなった「ネット上の民族差別」を巡る民事訴訟へと発展する段階にはまったくほど遠い段階であった。つまりかいつまんで言えば、2011年とはネット右翼にとって「やりたい放題の時代」であった。
サントリーがネット右翼による格好の標的となった切っ掛けは、まったくくだらない内容であった。それは同社が発売した韓国焼酎「鏡月」のウェブ上の広告に、
“『鏡月』というその名前は韓国/東海(日本海)に隣接した湖『鏡浦湖』(キョンポホ)のほとりにある古い楼閣「鏡浦台」(キョンポデ)で、恋人と酒を酌み交わしながら、そこから見える5つの月を愛(め)でた詩に由来しています”
という文言が躍ったからである。……いったいこれのどこが問題なのか、一瞬迷う方も居られよう。それはすなわち広告文句の冒頭部分“韓国/東海(日本海)”という部分が、ネット右翼の逆鱗(げきりん)に触れたためである。
古くから環太平洋文化圏を形成していた極東の巨大な内海――日本海――は、韓国では「東海」と呼ばれていることは読者もご存じであろう。ネット右翼の言い分は次の通り。「日本企業であるサントリーが、日本海を括弧内とし、韓国表記である“東海”を正として表記しているのはけしからん反日企業の所業である」「サントリーは韓国側の東海呼称を正として用いるということは、韓国による竹島不法占拠も容認するというけしからん反日姿勢なのである」というものだ。
■「サントリーは反日企業」「担当者は在日に違いない」
ネット右翼は、この一点のみをもってサントリーを「反日企業」「在日企業」「担当者は在日(コリアン)に違いない」と根拠無く誹謗(ひぼう)し、実際に同社には電話・メール・FAX等々での抗議が殺到する珍事態となった。ネット右翼はこぞって「サントリー製品の不買運動」を呼びかける運動に発展した。
いわゆる「サントリー日本海呼称事件(2011年)」の勃発(ぼっぱつ)である。ネット右翼がネットを端緒として扇動したこの事件は、同年8月19日、同社がウェブサイトで以下のような謝罪文省と広告文句の修正を行ったことで一応の収束をみた。
“韓国焼酎「鏡月」のブランドサイトにおきまして、製品のネーミング由来を紹介する文章中にございました地名表記につきましては、あくまで、商品を紹介するための広告上の表現で、地名に関する見解を表明するものではありませんでした。お客様にご不快な思いをおかけしましたことに対して、深くお詫びいたします。”
が、ネット右翼によるサントリーへの憎悪は、まるでいったん鎮火したが下草のくすぶりとなって残り続ける。それは2017年における女優水原希子さんを起用したサントリーCMへの誹謗中傷事件(別項にて解説予定)への、まるで前哨戦のように、彼らの憎悪が伏兵となって存在し続けることになったのである。