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 トランプ米大統領との首脳会談で「体制の安全の保証」を引き出した金(キム)正恩(ジョンウン)朝鮮労働党委員長にとって当面、優先度の高い課題は国連制裁網の解除とみられる。「合弁禁止」条項の削除は「重大な懸案の一つ」(外務省関係者)だろう。

 金氏は自立的、持続的な経済が育たなければ、国が持たないと考えている可能性が高い。それゆえ、金氏が「合弁」による資本や技術の導入こそ政権の安泰を確実にすると理解しているとしても不思議ではない。

 北朝鮮は1984(昭和59)年、対外経済開放政策の一環として「合営(合弁)法」を定め、外国からの技術や資本の導入を図った。最も当てにしたのが在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)。だが、閉鎖的で硬直した体質が災いし、開放政策は頓挫しかかった。

 そこで、金日成(イルソン)主席は86年、日本で商いをする在日朝鮮人は日本での地歩を固め、そのために合弁しなければならない−とする教示を発した。以降、朝鮮総連は合弁に邁進(まいしん)。日本貿易振興機構(ジェトロ)の報告書によると、91年当時、北朝鮮国内で開設された合弁は約100社で、80%が在日朝鮮人とのものだった。

 朝鮮総連系の「国際トレーディング」創業者は、当初から北朝鮮側と軍需企業の「朝鮮国際化学合営会社」を起こすため、日本で起業したと後に語っている。初めからハイテク素材の原料として有用性が高く、北に豊富なレアアース関連の技術を日本から移転する狙いだった。その抽出技術はウランの場合と同様だ。

 取り締まりの法律や体制が整わないため実態把握すら難しく、摘発もできてこなかったが、北朝鮮が仕組んできた合弁の本質は戦略的技術や知識、資本の持ち出しだった。北朝鮮の核・ミサイル開発は、そうした流出の結果の集積である。

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【用語解説】国連安保理による北朝鮮制裁決議

 2006(平成18)年10月の核実験に対する安全保障理事会決議で初めて制裁が盛り込まれ、その後の追加決議で貿易や船舶入港の禁止、人の入国規制から個人や企業、団体の資産凍結などが決まった。17年9月、合弁事業の原則禁止や北朝鮮制裁委員会が認めていない既存事業の解散を追加。事業の開始時期と無関係に、未承認で稼動(かどう)しているものはすべて対象となる。