【シンガポール=吉村英輝】オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)は、中国人民解放軍から派遣された科学者が、その素性を隠すなどして米国や豪州などの大学で「共同研究」を行い、軍事転用目的で先端技術を中国に持ち帰っている実態に、警鐘を鳴らす報告書をまとめた。その人数は増加を続けており、この10年間で2500人以上に上っているとした。

 報告書を執筆した同研究所のアレックス・ジョスキ研究員は、人民解放軍機関紙「解放軍報」の傘下メディアに載っていた「外国で花を摘み、中国で蜜を作る」との戦略を紹介。超音速ミサイルや航海技術など多くの分野で、欧米諸国から技術獲得を進めていると指摘した。

軍同士が互いの研究所に科学者を派遣する交流は、両国間の信頼構築のため一般的に行われているという。ただ、中国は異質で、人民解放軍の管轄下にある国防科学技術大学の科学者が実在しない研究所名を使うなどして所属を偽装し、博士課程の研究員などとして、海外の一般大学に入り込んでいる点だと指摘。実例も複数紹介した。

 人民解放軍が派遣する科学者は、中国共産党への忠誠教育などを受けて送り込まれるという。国防科学技術大学は、海外で支部を作り科学者らを管理。国外の「自由で開かれた」大学で、中国共産党と相いれない政治思想などを抱けば「どんな目に遭うか分からない」と、圧力をかけて統制しているという。受け入れた大学側から残留を打診されながら、全員が規定年限で中国に帰国するのも、このためだという。

 分析の結果、人民解放軍の科学者が海外で共同執筆して専門家から査読を受けた論文数は、2008年の103件から、17年には734件に増加。共同研究相手の17年の国別上位は米国、英国、カナダ、豪州、ドイツの順となった。日本やフランスも含まれている。

 報告書は、これらの共同研究には、各国の公費が使われているケースもあると指摘。一方、人民解放軍の科学者は、相手国で知的財産を盗み本国に送るスパイ活動に従事していることもあると警告する。中国が軍事技術の強化を進める中、豪州政府は官民がより連携し、人民解放軍を利するような中国からの研究者の受け入れや技術流出への監視を強化すべきだとした。

https://www.sankei.com/world/news/181102/wor1811020016-n1.html
産経新聞 2018.11.2 09:36