国が朝鮮学校を高校無償化の対象から外したのは違法だとして卒業生らが国に損害賠償などを求めた訴訟が全国5カ所で続いている。福岡地裁小倉支部の審理は9月に結審し、来年3月に判決を出す予定だ。「教育内容などに在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の影響が及んでいる」として2013年に対象外とされた朝鮮学校だが、実態はどうなのか。九州唯一の中級部(中学)と高級部(高校)がある九州朝鮮中高級学校(北九州市八幡西区)の日常を取材した。

 9月中旬、3階の高級部の教室でまず目に付いたのが、黒板上に掲げられた故金日成(キムイルソン)主席と故金正日(キムジョンイル)総書記の肖像画だ。女性教員は伝統的なチマ・チョゴリを着用し、校内では原則朝鮮語で話すことになっている。

 授業も全て朝鮮語だが、生徒が家庭で普段使うのは日本語。見学した高級部2年の英語の授業では思わず日本語で答えてしまう生徒もいたが、教師が特に注意することはなかった。

 階を下りると、中級部の教室からも国語(朝鮮語)の音読が聞こえてきた。難しい言葉に苦笑いする生徒もいて、和やかな雰囲気が漂う。中級部の教室に肖像画はない。約15年前、北朝鮮に厳しい日本世論への配慮から外したという。

 ただ、同校は「民族的アイデンティティーの確立」を教育理念に掲げており、学年が上がるにつれて自らのルーツを知る学びは色濃くなる印象だ。高級部では植民地時代の朝鮮人の心情を込めた詩を国語で扱い、3年の修学旅行では北朝鮮を2週間訪問。生徒の大半は福岡県で生まれ育ったが、多くは朝鮮籍や韓国籍で、みな「心の故郷」は北朝鮮だと口をそろえる。

 大分県の公立中から編入した高級部3年の男子生徒(17)は「日本や韓国の視点を交えながら、自分たちのルーツを知ることができた」と語る。

 一方、同校の生徒というだけで嫌がらせを受けることもある。1994年には朝鮮学校の女子生徒が通学中に制服のチマ・チョゴリを切り付けられる事件が発生。同校は2004年から制服をブレザーに変えたが、今でも通学中に陰口をたたかれることがある。ある生徒は「相手には意味が分からないように、朝鮮語で『うるせえよ』と言い返すこともある」と怒りをあらわにする。

 生徒数は現在74人で、10年前の半分以下。経営は卒業生の寄付頼み。教員不足のため、校長も教壇に立っている。卒業生の進路は朝鮮大学校(東京)、日本の大学、就職などさまざまだが、近年は訪日韓国人向け通訳などの求人が増えているという。全〓成(チョンジンソン)校長(55)は「在日同胞社会と、日本社会に貢献する人材を育てることが朝鮮学校の役割だ」と強調した。

 朝鮮学校での学びは決して恵まれてはいない。それでも通い続ける生徒たちがいる。休み時間にK−POPやゲームの話題で盛り上がる姿は、どの学校にもありそうな光景だった。自分が何者で、どう生きるかを真剣に考えている姿も印象に残った。校舎を後にし、日本人の高校生とどう違うのか、しばらく考えた。

 朝鮮学校無償化訴訟 2010年4月に始まった高校無償化制度を朝鮮学校にも導入するかどうか、当初は審査対象となっていたが、13年に下村博文文部科学相(当時)が対象外とした。13〜14年、全国の朝鮮学校在校生や卒業生らが国に損害賠償や処分の取り消しなどを求め、大阪・名古屋・広島・小倉・東京の全国5地裁で提訴。小倉以外は一審判決が出ており、大阪のみ原告側が勝訴。いずれも控訴され、今年9月には大阪高裁が一審判決を取り消し、原告側逆転敗訴の判決を出した。10月30日には東京高裁が原告の控訴を棄却。福岡地裁小倉支部では9月20日に結審し、来年3月14日に判決の予定。朝鮮学校は、学校教育法が定める中学や高校ではなく「各種学校」に当たる。

 ※〓は「おうへん」に「晋」

https://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/article/462428/
=2018/11/02付 西日本新聞夕刊=

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中級部の国語の授業。小説の描写を再現しながら、和やかな雰囲気で進む。肖像画は約15年前から外されている
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高級部の英語の授業風景。黒板の上には肖像画が飾られている