韓国軍で警備小隊長を務めていたとき、夕方の勤務を命じられた。訓練がある昼間の勤務は先任の下士官が務めた。上官に、訓練の指揮を下士官にばかり任せてもいいのかと尋ねたら、「小隊長は兵の事故予防のための面談に神経を使え」と言われた。実際やってみると、弟分の兵士から困っていることを聞いてやり、励ますのが仕事だった。

 当時の部下面談では、勤務する哨所を変えてほしいという要求が多かった。「高速道路ばかり見ていて憂うつ」「自分がなぜここにいるのか分からない」といった理由だった。「肉体的につらい」という声はまれだった。大部分は「がんばって勤務しろ」となだめたが、「子どもが苦しがってる」という両親の連絡まで来たら、上層部では「休暇を出せ」と言った。脱走事故よりはマシということだった。

 韓国陸軍の新兵教育隊では、3年間も手りゅう弾の投擲訓練を中止していたという。手りゅう弾の爆発事故で人命被害が生じたことを受けて訓練を中止し、その後、実戦で一度も手りゅう弾を投げることなく除隊する兵士がほとんどということだった。野外訓練で顔に塗る擬装用のドーランも、兵士たちが「肌が敏感だ」といって拒否したらどうしようもない雰囲気だという。軍の幹部らは「自分が軍人なのか、幼稚園の先生なのか分からない」と舌打ちしている。実際、兵士から「おじさん」と言われる幹部もいる。

 韓国軍がこうなったのは、兵士の保護者の過激さも一つの原因だ。少しでも実戦に近い訓練をすると、保護者が陳情を出すという。米軍のように悪天候の中で訓練をするというのは夢見ることもできない。実弾射撃訓練も、実戦の状況とはまるで関係ない、事故予防方式で行う。保護者と小隊長が連絡を取るカカオトークのグループチャットルームまでできた。専門家らは「軍人には精神的自立が欠かせないのに、軍隊に来ても保護者が介入し続けるので独立が難しくなる」と語った。

 韓国軍内部にはびこる保身主義も問題だ。軍幹部らは、訓練の内容ではなく事故時に問責されることをまず心配する。徴兵制の限界だとみる分析もある。英国軍は職業軍人からなり、アルゼンチン軍は徴集兵を中心としていたが、両軍がぶつかったフォークランド紛争では英軍の圧勝だった。8年前の延坪島砲撃挑発で、ヘルメットに火がついたとも知らずに対応射撃を行った海兵隊員もまた、徴集兵ではなく志願兵だった。韓国は、核武装した北朝鮮軍120万と対峙している。そんな国の軍隊が、3年間手りゅう弾の投擲訓練すらしなかったとは言葉を失う。これも全て「米軍がいるから戦争は起きないだろう」という心理が下敷きになっている。しかし2015年の地雷挑発のときには、多くの兵士が除隊を延期して国防の義務を尽くした。こういう兵士の方がはるかに多いと信じたい。

崔慶韻(チェ・ギョンウン)論説委員

http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2018/11/03/2018110300515.html
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版 2018/11/03 09:31