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続き。

◆盧武鉉政権は強制徴用に対する損害賠償問題は事実上終わったという見方を示した。その判断を下した委員会に、文在寅大統領も関与していた。だが大法院はそれとは異なった判決を下した。

◆中国の習近平・国家主席と日本の安倍首相は先日笑顔を見せながら握手したが、これは歴史問題と外交あるいは国益を区別するものだった。

◆韓国政府は司法の判断を尊重する一方で、韓日間の信頼を改めて確認する手立てを考えねばならない。両国の首脳が今後の関係について虚心坦懐(たんかい)に話をする場を設けることも一つの方法だろう。

 こちらは「とにかく話し合いましょう」という、日本の社説でもおなじみの主張で結んだ。それでも盧武鉉(1946〜2009)政権時に個人補償権の放棄を確認したと、しっかり触れているのは重要だろう。いずれにせよ、ハンギョレ新聞の社説に比べると相当に穏健だと言える。

 もう1紙の紙面もご覧いただこう。中央日報は保守派とされるが、中道左派寄りの論調にも理解を示す。同紙の社説は朝鮮日報と同じ対話路線を呼びかけるものだったが、申ガク秀・元韓国駐日大使(63)の論文を11月5日に掲載した。見出しは「【時論】強制徴用判決の影響、韓日協力で解決するべき」となっている。

◆判決により韓日関係がさらに冷え込む恐れがある。韓日の歴史和解に相当な負担をもたらすことになりかねない。

◆2015年の日本軍慰安婦合意の無力化に続き、従来の立場を覆す大法院の判決まで出て、日本と国際社会における韓国の信頼度を落とすことになる。

◆最も望ましい解決策は基金の設立だろう。韓国政府、韓国企業、日本企業の3者が拠出すれば、韓日協力の円満な解決方法になりえる。国際司法裁判所を舞台とすることは、国際世論戦に利用されるだけだ。

 基金を落としどころにする提案は日本の報道でも散見されるが、注目点は今回の判決が「韓国の信頼度を落とす」と元駐日大使が明記したことだ。「ちゃぶ台返し」の判決に呆れる声が、日本だけのものではないことが分かる。

韓国で消滅した「司法の独立」

 東京通信大学の重村智計教授(73)は「3紙の論調は、ある意味で当然だと言えます」と指摘する。

「最左派のハンギョレ新聞は、読者層と文在寅政権の支持層が重なります。元徴用工裁判では政権と一体化した報道を積み重ねてきました。日本に対して最も強硬的な論調になるのは必然でしょう」

 これに対して朝鮮日報と中央日報の2紙を、重村教授は「親日ではなくとも、知日とは言える新聞社です」と評する。

「2紙には日本語が堪能な記者も少なくありません。日本への取材を長年、積み重ねてきた実績を持っています。もっとも最近では、日本を知らないデスクや現場記者も増えてきたようで、ピントの外れた反日的な記事も掲載されています。とはいえ日本への視点は比較的、冷静だと言えます」

 だが、判決に対する論調の違いは、そもそも3紙における対日観の差異が原因ではないという。「むしろ文在寅大統領(65)への“評価”が大きく反映している」と重村教授は言う。

「実は今回の判決は、韓国の国内政治に与える影響が極めて大きい。支持率の低下に悩む文在寅政権に対する追い風になる可能性があるからです。文大統領の目標の1つに、大統領2期制の実現があります。現在は1期5年と定められた憲法を改正しようとしているのです。そのためには高い支持率が必要であることは言うまでもありません」

続く。