文在寅(ムン・ジェイン)大統領は9日に経済政策のツートップとされる経済副首相と大統領府政策室長を一気に交代させた。経済政策担当者の人事は17カ月ぶりで、雇用情勢や景気の悪化といった経済政策不信の責任を問う意味合いがあるようだ。後任の政策室長には文大統領の側近とされる金秀顕(キム・スヒョン)社会首席秘書官が、また副首相には首相室の洪楠基(ホン・ナムギ)国務調整室長が任命された。大統領府の親政体制を一層強化し、所得主導成長と呼ばれる政策を引き続き進める考えを明確にした人事と言えるだろう。経済の悪化は大統領府中心の左偏向政策が原因にもかかわらず、文大統領は政策の見直しどころか全く逆の方向に進もうとしているのだ。

 今回の経済政策担当者の更迭は、現政権発足から1年半にわたり行われた経済政策が失敗したことを認める形にもなった。現状では経済成長に急ブレーキがかかり、景気も悪化を続けている。経済成長に必要な3つの要素とされる設備投資、生産、消費が同時に減少する「トリプル下降」もはっきりしてきた。若年失業率と雇用は今や最悪の状況にあり、所得の分配も悪化している。半導体を除く主力産業は衰退の兆しが明確だ。自営業景気と庶民経済はアジア通貨危機当時以上に悪化しているとの声も聞こえてくる。全ての統計、全ての指標が悪化と低空飛行を続けているのだ。

 経済がここまで悪化した原因は、経済政策担当者の力量不足ももちろんあるだろうが、それ以前にイデオロギーや政治問題に没頭した政府の左偏向経済政策に根本的な原因がある。文大統領が掲げる目玉政策の1つとされる最低賃金の1万ウォン(約1000円)への引上げ、非正規職の正社員化、労働改革の拒否、公務員増員、大企業に対する規制、脱原発などはいずれも本来は選挙を目的に政治工学的に設計されたポピュリズム的公約だった。ところがこれらが国の政策として一気に実行に移されたのだから、今の深刻な結果もある意味当然のことだ。

しかも今回新たに起用された第2期の経済政策ツートップをみると、従来の政策を一層強化するための人事であることは間違いない。大統領府政策室長はその業務のほとんどが経済政策と関連している。市民運動家であり活動家出身の金秀顕(キム・スヒョン)社会首席秘書官は貧民運動に従事してきた都市工学の専門家だ。盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権では反市場と規制一辺倒の不動産政策を推進し、住宅価格の高騰という結果を招いた張本人でもある。つまり今回の人事によって政治における独断とイデオロギーへの傾倒、そして左偏向が一層進むことが明確になった。具体的には規制、反市場、労働者中心、反企業の傾向を帯びた政策がさらに強化される可能性が高まったということだ。

 キム・ドンヨン副首相はこれまで大統領府とは違った考え方を語ることも少なくなかったが、それとは対照的に後任の経済副首相に任命された洪楠基(ホン・ナムギ)国務調整室長は上からの指示に徹底して従う実務型の人物だ。つまり大統領府が一方的に政策を決め、経済政策の担当者はその手足として実務だけを担う今の構図が一層固められようとしているのだ。経済政策は現実を知る経済関連部処(省庁)と副首相が中心となって行うべきだ。ところが経済の現場とは距離のある大統領府が主導権を握ると、経済政策が政治的な意志決定に左右されてしまう。経済が政治によって左右されると、それは経済にとって致命的な毒になるのだ。

 新たな経済政策担当者が発表されたこの日、文大統領は公正経済戦略会議を主催し、経済の民主化に向けた一連の大企業規制法案を推進する考えを明確にした。成長の動力が失われ、経済はすでに下降局面に入ったにもかかわらず、3カ月ぶりに大統領自ら主催した会議のテーマは企業の力を奪う「公正経済」だった。もちろん公正も経済の民主化も重要だが、いずれもそれに見合った時というものがあるはずだ。

 要するに全ての問題は文大統領に集約される。文大統領は自らの支持層以外から出る見解や苦言は全て悪とみなしており、それらと完全に逆の方向に進む人物であることが徐々に明確になりつつある。このまま行けば次の選挙で勝てるという計算と確信もあるのだろう。だとすれば人事も政策もこのまま逆行を続けるはずであり、それは任期の最後まで続いていくはずだ。

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朝鮮日報/朝鮮日報日本語版 2018/11/10 09:35