日韓関係が急速に冷え込んでいる。元徴用工だったと主張する朝鮮半島出身者が起こした賠償請求訴訟で韓国大法院(最高裁)が日本企業に賠償命令を言い渡す判決を下し、韓国政府がいわゆる従軍慰安婦問題をめぐる一昨年末の日韓合意に基づく支援財団の解散を発表したことが決定的な原因だ。日本には韓国に対する不信感が広がっているが、なぜ文在寅政権は反日路線に舵(かじ)を切ったのだろうか。(編集委員・上田勇実)

■日本と国内支持層の板挟み
■特使派遣を日本に要請も
 
先月、韓国女性家族省は元慰安婦やその遺族への癒やし金支給を行ってきた「和解・癒やし財団」の解散を発表したが、それと関連し韓国外務省は「日韓合意の破棄や再交渉は求めない」という従来の立場を重ねて強調した。財団解散を事実上の日韓合意破棄と見なす日本側への配慮が明らかににじんでいた。

女性家族省は財団解散の法的根拠として「目的以外の事業を行ったか設立許可の条件に反した」場合を記した民法第38条を挙げているが、財団の成果については「以前(朴槿恵前政権時)あったことを否定するわけではなく、事後的な現状では成果がない」(同省権益増進局関係者)と説明。これも日本が拠出した10億円で実施された癒やし金支給など「以前」の財団活動の意義を貶(おとし)めない便宜的解釈だろうか。

文大統領はアルゼンチンで開催された主要20カ国・地域(G20)首脳会議に出席後、帰国の途で記者団に「歴史問題によって韓日の協力関係が損なわれてはならない。未来志向的な協力をすべきだ」と述べた。

元徴用工訴訟をめぐる大法院審理を朴槿恵前政権が意図的に遅らせたという疑惑を問題視したことが今回の賠償命令につながるなど、自ら「反日判決」の流れをつくっておきながら「未来志向」に言及した文大統領の発言は一見すると矛盾している。ただ、そこには文大統領なりのジレンマがあるようだ。

ある日韓関係筋はこう指摘する。

「政権が最優先する北朝鮮の対話路線維持には日本の協力が不可欠だが、政権の支持勢力である市民団体へのリップサービスもしなければならない。だが、それをやってしまえば今度は日本との関係が悪化するので、日本と国内支持層の板挟み状態が続いている。財団解散に対し文大統領が言及を避け、元徴用工訴訟でも李洛淵首相に対応を任せているのはそのためだ」

関係者によれば、青瓦台(韓国大統領府)の秘書官たちは日本がこうした政権のジレンマに理解を示さず、強く反発していることに逆に不満を抱いているという。元徴用工判決で「日本政府が過度に反応しているのは遺憾」(韓国外務省)とコメントしたのにもそれが表れている。

元徴用工訴訟では今後も日本企業への賠償命令が相次ぐ恐れが出てきたが、原告に寄り添ってきた韓国市民団体は「(韓国歴代政権が認めた)韓国政府による被害者への補償は論外。あくまで司法判断に沿うべきで、日本企業が応じなければ韓国内の資産差し押さえを粛々と進めるまでだ」(金敏普E民族問題研究所責任研究員)という強硬論が大勢だ。被害者感情に世論が流されやすい韓国で、文政権がこれを無視できるとは思えない。

ただ、文政権が抱える事情はあくまで国内問題だ。韓国政府内では問題収拾へ特使派遣の案も出ているようだが、韓国から日本に送れば市民団体に弱腰と批判されかねない。日本側に韓国への特使派遣を密(ひそ)かに要請したいのが本音のようだ。


2018/12/12 世界日報
http://www.worldtimes.co.jp/world/korea/91657.html