「犬食」は食文化か、それとも動物虐待か−。ソウル近郊で稼働していた韓国最大の犬の食肉処理施設が11月、閉鎖された。滋養強壮の食材として同国で長年愛されてきた犬肉だが、近年は五輪など国際イベント開催を通じて海外から批判を浴び、国内でも人気が下火に。食肉処理を違法とする司法判断も登場するなど、岐路を迎えている。(外信部 時吉達也)

 ■「残虐」…保護団体、劣悪環境訴え

 「太平洞の犬肉処理場は、歴史の裏道に消えていく」

11月下旬。ソウル近郊にある城南市太平洞の犬肉処理施設が行政による強制執行で撤去されたのを受け、動物保護団体の一つは声明で、高らかに“勝利”を宣言した。

 同施設は食用の犬の販売市場として有名な「牡丹(モラン)市場」の近所にあり、これまで年間8万匹以上の犬を食肉処理。牡丹市場をはじめ全国各地に犬肉を供給していた。

 「感電死など残酷な方法で殺害されている」「インフルエンザ感染の犬も食肉処理されている」。動物保護団体側は、劣悪な衛生環境などに照準を当てて批判を強め、施設閉鎖を求めるよう世論を喚起してきた。悪臭などを理由に付近住民からも撤去を求める声が大きかったことから、城南市は2014年、施設一帯を公園に作り替える計画を決定。一部業者は不法占拠を続けていたが、根負けした形となった。

 ■日韓W杯から国際批判拡大

 犬肉はこれまで、日本の「土用の丑の日」にあたる「伏日」の定番「補身湯(ボシンタン)」の具材などとして、韓国で人気の滋養食だった。今年6月の世論調査によると、犬肉を食べた経験のある韓国人は59・5%。一昔前は「社内の飲み会が犬肉専門店で開かれることもしょっちゅうあった」(男性会社員)というほど一般的だったという。

 しかし、2002年のサッカー日韓W杯を契機に犬肉食の存在が広く知られるようになると、海外から批判が拡大。今年の平昌五輪開催にあたっても、欧米メディアが相次いでこの問題を取り上げた。

 動物保護団体の圧力や需要の低迷に伴い、犬肉市場は縮小の一途をたどっている。韓国紙ハンギョレによると、「牡丹市場」内では日韓W杯前の01年、54の犬肉処理業者が営業していたが、2016年末には22まで減少。残った業者も、自治体との交渉を通じてほとんどが食肉処理から業種を転換し、現在では1業者のみが営業を続けている。

■国会、司法巻き込み社会問題化

 「犬肉」をめぐる議論は司法や国会をも巻き込み、社会問題となりつつある。

 韓国最高裁は今年9月、犬を感電死させる食肉処理方法の是非が争われた裁判で、「違法性はない」とした判決を破棄、高裁に差し戻したことを明らかにした。最高裁は感電死の「残忍性」を判断する上で、「その時代の社会通念」が影響すると指摘。国民意識の変化を理由に挙げた格好だ。

 この判断に先立ち、4月には地裁支部で、養犬業者に対し「食用にするのは犬を殺す合法的な理由とはいえない」などとして、罰金300万ウォン(約30万円)の支払いを命じる判決も登場した。業者側は控訴せず、判決が確定している。

一方、与党「共に民主党」の議員らは6月、国会に動物保護法の改正案を提出。これまで法律で扱いが明文化されていなかった犬の食肉処理の制限につなげる内容で、事実上の「犬肉禁止法案」として審議の行方に注目が集まっている。

 世論調査会社「リアルメーター」の調査によると、法案への「賛成」44・2%に対し、「反対」は43・7%と拮抗(きっこう)している。「個人の自由であり法で規制する必要はない」などとする「反対」表明は、男性では過半数(50・8%)に上る一方、女性は36・8%にとどまり、犬食への拒否感が顕著に表れる結果となっている。

https://www.sankei.com/life/news/181214/lif1812140003-n1.html
産経 2018.12.14 01:00

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北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長から贈られた豊山犬やその子犬と写真に納まる韓国の文在寅大統領夫妻。犬肉の食文化衰退の背景には、ペット人気の高まりも指摘される=11月25日、ソウル(大統領府提供・共同)