日本海での日韓の軍事的トラブルが尾を引いているが、日本と今にも戦争しそうな韓国側の高姿勢や興奮に接しながらどこか既視感があった。盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代の2005年6月に似たようなことが起きているのだ。漁業問題が原因で、軍ではなく巡視船や警備艇による対立だった。

 当時、韓国の新聞には「韓日の警備艇13隻が東海(日本海のこと)で対峙(たいじ)!」とか、「一触即発、緊張高まる蔚山(ウルサン)沖!」といった大見出しが躍り、いざというときの韓国軍の対応策として海・空軍の布陣状況などを紹介し、戦争シナリオまで書き立てている。

この時は、日本の排他的経済水域(EEZ)で不法操業していた韓国漁船を日本の巡視艇が追いかけたところ、韓国の警備艇がそれを妨害しかくまったためで、双方が海上で長時間にらみ合う事態になった。韓国側の不法行為が発端だったから最後は韓国側が謝ってケリがついたが、当時の日韓関係は2月に島根県が「竹島の日」を制定したことに韓国が反発し反日気分が高調していた。

 盧武鉉政権は日本に対し「外交戦争」を宣言し、日本とは「一戦も辞せず」と対日強硬論を展開した。当時、筆者は「官民挙げて“対日疑似戦争”を楽しんでいる」と書いている。

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領は盧武鉉の最側近で文政権は盧政権の再現といわれる。そして今また「日本に軍事的に断固対応」とか「警告射撃も」などいって、マスコミともども対日疑似戦争を楽しんでいるようだ。

 韓国では昔から「日韓戦えば」はエンターテインメント小説の定番である。その大方のシナリオは「日本が武力で独島(日本の竹島)を奪いにくる」ことが仮想戦争の発端になっている。

1990年代に200万部を超すベストセラーになり映画にもなった『ムクゲの花が咲きました』はその典型だが、この小説では日本の侵略に対し韓国が北朝鮮と共同開発した核ミサイルを最後に東京沖に報復発射するという話だ。

 韓国人は酒席で笑いながらよく「日本と一度、戦争し勝ってみたい!」などという。韓国人にとって日本に対する最大の「恨み(ハン)」は過去、日本に支配されいじめられたことではない。日本と戦って自力で解放・独立を勝ち取れなかったことなのだ。

対日感情の根底には、今さらどうすることもできないこの歴史上の恨みと欲求不満が潜在している。それをスポーツの対日戦やエンタメ小説・映画で晴らしているだけでは済まず、現実の政治・外交トラブルでも疑似戦争気分で「一戦も辞せず」などと高姿勢で日本非難に熱を上げるのだ。

 最近、韓国マスコミは日本に対し「戦犯国」「戦犯旗」「戦犯企業」など「戦犯」という言葉をよく使う。日本と戦争していない韓国がそれをいうのは不思議だが「日本と戦争したつもりになって日本を非難すれば気分がいいのだ」と考えればよく分かる。

 韓国では今年、「3・1独立運動100周年」で官民挙げてのキャンペーンが始まっていて、抗日テロをはじめ日本と戦ったシーンがドラマや映画まで動員して毎日のように紹介されている。これで「日本とは戦って独立した!」ことにしておとなしくなってくれればいいが、そんな場面を繰り返し見させられたのでは逆に「本当に戦って勝ちたい」という欲求不満は高まるかもしれない。(ソウル駐在客員論説委員)

https://www.sankei.com/world/news/190128/wor1901280011-n1.html
産経新聞 2019.1.28 12:22