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・争点は「企業の損失」と「円滑な維持」

1月30日、共同通信がこの件を報じるとTwitter上には「思想警察、一歩手前」「『トラブルを避けたい』だけの過剰反応」などFMGの判断を疑問視する投稿が多く見られた。中には「ディオール製品を見かけたら『フェミニズム支援のブランドではないか』と苦情を入れるのか。苦情が入ったらディオールの所持を禁止するのか」などの意見も。

FMG担当者は、今回の決定について、こう説明する。
「マリーモンドを批判する意図があるわけではない」「弊社は特定の政治的な思想を支持していないが、スタッフが商品を使用していることでそうした誤解が生じるのを懸念した」 

これに対し、労働問題に詳しい増田崇弁護士はこう指摘する。

「就業中の身なりや政治活動に関しては、使用者(企業)の損失と円滑な維持に関わるようなことであれば、従業員は企業からの指示に従わなければならないというのが基本です」

裏を返せば、企業の運営に支障をきたすようなことでなければ労働者の権利は認められる。

2019年1月、大阪市営地下鉄(現・大阪メトロ)の男性運転士2人がひげを理由に人事評価を下げられたのは憲法の人格権に違反するとして大阪市を訴えた裁判で、大阪地裁が市に慰謝料など計44万円の支払いを命じたことが話題になった。

増田弁護士によると、ひげや茶髪などを理由に戒告処分などを受けた労働者が企業を訴え、その処分が無効になった判例は複数あるという。

また最高裁は、JR東日本の社員が就業中に対立関係にある国鉄労働組合のマーク入りベルトの取り外しを命令されたのは人格権の侵害だとして、JR東に慰謝料の支払いを認めている。

「今回のケースではバッグに政治的なスローガンが書かれているわけではないので、企業の運営に支障をきたすとは言い難いのではないでしょうか。もちろんマリーモンドを知っている人が何らかの意図を汲み取ることはあるでしょうが、それを言ったらヒゲでも茶髪でも不快に思いクレームをつける人は一定数います。

従業員の行動を制限してまでそうしたクレームに配慮する必要があるのか、そもそも従業員のそうした身なりや持ち物が企業の損失につながるのかどうか、企業側も慎重に判断した方がいいでしょう」(増田さん)

マリーモンドのエコバッグを持っていたという理由で担当マネージャーから指摘を受けたという韓国人スタッフは、ソウル新聞のインタビューで以下のように答えている(中央日報より)。

「政治スローガンが書かれていたものでもなく、単に慰安婦のおばあさんを後援する会社のカバンだから持つなというのは不合理ではないかと思った」

FMGに今回の指示に対するスタッフの反応を尋ねると、「把握していない」という回答だった。