【ソウル=名村隆寛】日本の朝鮮半島統治下の1919年に、中国上海で独立運動家らによる「大韓民国臨時政府」が設立されてから11日で100年となる。この日を建国の日とみなす韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、記念日を式典で大々的に祝うはずだったが、ワシントンで同日行われる米韓首脳会談のため10日、米国に向け出発した。

 韓国では、朝鮮半島の南北分断下で李承晩(イ・スンマン)初代大統領が就任した1948年8月15日が建国記念日だ。しかし、文在寅政権は昨年8月の建国記念日を「政府樹立70周年」とした。また、100年前の19年3月に日本の朝鮮半島統治に対する「三・一独立運動」が起きたことも合わせ今年を重視し「新たな100年」というスローガンを掲げた。

 「臨時政府記念館」(2021年8月完成予定)の設立ほか、2月に臨時政府には参画した独立活動家、金九(キム・グ)の記念館で閣議を開くなど、文氏は臨時政府による“建国”に相当入れ込んでいる。だが、文氏は臨時政府の記念日よりも、北朝鮮問題をめぐるトランプ米大統領との会談を優先せざるを得なかった。

訪米を前に文氏は9日の閣議で「大韓民国臨時政府は韓国のルーツであり、今の韓国を作った原動力だ」と強調。「三・一運動で誕生した臨時政府は解放まで日本に立ち向かい、自主独立運動の中心として使命を果たした」と語った。

 文氏は昨年9月の南北首脳会談で、三・一運動の100周年を南北共同で記念することで合意。だが、念願の民族共同行事を北朝鮮側は直前に断った。臨時政府記念日の南北歴史共闘も一時は取り沙汰されたが、建国を1948年9月9日と定める北朝鮮は、そもそも臨時政府設立に冷ややかだ。北朝鮮にとって正統な歴史は、金日成(イルソン)主席の抗日革命史しかないためだ。

 韓国の左派が期待していた歴史をめぐる今年の南北の対日共闘は霧散したに等しい。結果として文氏は、2月の米朝首脳会談の物別れを受け、再び米朝の間で困惑し、北朝鮮に振り回されている状況だ。

 三・一運動記念日の式典では文氏が演説で「親日清算」を訴えたが、11日夜に予定されている臨時政府樹立100周年の式典は、その重要性を最も強調している大統領が皮肉にも不在となる。三・一運動の記念日同様、先人たちの「抗日」をたたえる内向きの記念日に終わりそうだ。(産経新聞)

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夕刊フジ 2019.4.10