徴用工問題の膠着(こうちゃく)状態がさらに長期化しそうだ。韓国は、日本が要請した争い解決のための仲裁委員任命に応じず、日本が受け入れられない提案をした。

 だからといって、対話の窓を閉じるのは賢明ではない。安倍晋三首相と韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領は、主要20カ国・地域(G20)首脳会議の場を活用して向き合ってほしい。

 韓国政府はきのう、昨年10月の韓国最高裁による日本企業への賠償判決後、先送りしてきた対応策を発表した。被告を含む日本と韓国の企業が自発的に慰謝料を拠出するなら、1965年の日韓請求権協定に基づく2国間協議に応じるという。

 G20前に対策を講じたとアピールしたいのだろう。ただ、これは最高裁の判決受け入れを迫ることを意味する。前提条件を付けた協議の提案を日本が拒否するのは当然だ。

 安倍政権は徴用工問題での韓国側の姿勢を問題視している。このため、首脳会談の見送りが取りざたされている。しかし、それだけを理由に会談を開かないというなら、日本にとってもマイナスだろう。

 昨年10月以降、首脳会談は一度も行われていない。電話協議は昨年4月を最後に途絶えている。首脳同士の意思疎通の断絶は、両国のさまざまな分野に影を落としている。

 文政権の初期には、両首脳は頻繁に電話協議を行い、北朝鮮問題で連携していた。米朝協議が停滞する今こそ打開策を共に模索すべきなのに、情報共有もままならない状態だ。

 経済的な影響も出ている。韓国の民間経済団体の調査によると、昨年11月から今年5月までの両国間の貿易額は、前年同期比で9・3%減少した。韓国全体の貿易額の減少幅は3・2%にすぎない。

 市民レベルの交流は徴用工判決以降も続いているものの、相手国の首脳に対する印象は双方とも悪化している。両首脳は、自ら緊張や対立の緩和に努める責任がある。

 一度の会談で劇的な進展は望めまい。顔を合わせても、主張のぶつかり合いになる可能性もある。

 それでも、政治のリーダーが真摯(しんし)に向き合う姿勢を両国民に示すことは大きな意義がある。トップ同士の対話の積み重ねは、両国民の相互不信の払拭(ふっしょく)につながるはずだ。

ソース 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20190620/ddm/005/070/107000c