日韓両政府が感情的な言葉で非難の応酬をエスカレートさせている。偏狭なナショナリズムが高まらないか心配だ。双方ともかたくなな態度を改めて対話へかじを切らなければ、国民感情に与える傷は深くなる。

 参院選の投開票が迫った19日、河野太郎外相は韓国の南官杓(ナムグァンピョ)駐日大使を呼び、元徴用工訴訟問題で仲裁委開催に応じなかったことに抗議した。南大使が従来の提案を説明し始めると、通訳を遮って「(日本の立場を)知らないふりをして改めて提案するのは極めて無礼だ」と怒りをあらわにした。

 報道陣がいる場で一国の大使を外相がののしるのは異例だ。映像はメディアが繰り返し流した。韓国大統領府は「河野外相が見せた態度こそ無礼だ」と言い返した。

 韓国側も「無礼」という言葉を使っている。1月にレーダー照射問題でデータの突き合わせを提案した日本側に国防省報道官が「非常に無礼な要求だ」と発言した。河野外相は2月の国会でも当時の天皇陛下謝罪に言及した韓国国会議長を「極めて無礼な発言だ」と非難している。

 「無礼」は、過去にも歴史問題などに絡んで韓国側が日本に向けたことがある。昨年秋からの関係冷え込みでは、日本の外相も同じ言葉で応酬している。

 この発言を巡って河野外相のSNSには「よく言った」「すっきりした」といった声が多く寄せられている。「言論NPO」など日韓の民間世論調査によると、韓国に「良い印象」を持つ日本人は3年連続で減少し、今年5〜6月の調査ではわずか20%だった。

 一方、同じ調査で韓国人が日本に抱く印象は改善していた。「良い印象」は31・7%と6年前より19・5ポイント上昇した。昨年の訪日観光客は中国に次ぐ753万人で、日本の小説の人気も高いが、これ以上の関係悪化は対日感情を一変させる危険がある。

 既に市民交流に影響が出始めている。新潟県新発田市では韓国の友好都市から子どもの派遣を見送る意向が伝えられた。北海道旭川市でも韓国の姉妹都市が提携記念式典への参加を見合わせた。

 経済界からも、企業活動への影響を懸念する声は日増しに高まっている。

 隣国同士が背を向け合う外交に着地点は見えていない。民間交流へのダメージとともに、北朝鮮を巡る対応への影響も心配だ。相手への非難そのものが互いに政治基盤を固める内向きのパフォーマンスならば、許されない。 

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190724/KP190723ETI090005000.php
信濃毎日新聞(7月24日)