日韓関係が悪化したまま、改善の兆しが見えない。韓国、とくに現在の文在寅大統領とは、どのように付き合ってゆけばよいのか、経営コンサルタントの大前研一氏が解説する。

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日韓関係が冷え込み、過去最悪の状況になっている。周知の通り、日本が半導体やディスプレイの製造に必要な化学材料3品目(フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素)の韓国への輸出規制を強化したことをめぐり、両国政府間で非難の応酬が続いているのだ。

韓国では、日本製品不買運動や訪日旅行自粛、在韓日本大使館への抗議行動など反日の動きが報じられ、文在寅大統領もこの輸出規制強化が「日本経済により深刻な打撃を与えることになる」と警告した。しかし、日本側にすべての責任を押しつけるかのようなこうした姿勢は、文大統領の浅はかさの証明でもある。

外交というものは「次」の展開だけでなく、「次の次」まで考えて様々な布石を打っておかねばならない。ところが、文大統領の言動を見ていると、先の展開を何も考えていないのではないかと思わせるほど、その対応は浅薄でお粗末だ。

そもそも、国際社会における現在の韓国の地位はいかに築かれたものなのか。それは、西側陣営に入ってアメリカと同盟を結び、日本の技術や製品に学んだり日本の部品や機械を利用したりしながら、中国の巨大な市場と安価な労働力を活用することで、輸出大国としての今日の繁栄を築くことができたのである。しかし、そうした歴史を忘れた文大統領は、まるで自力で繁栄したかのように振る舞い、日本叩きや国内の親日派叩きに躍起となっている。そうすれば支持率が上がるからで、実際、7月中旬の世論調査では47.8%から50.7%に上昇している。

日韓関係が悪化したまま、改善の兆しが見えない。韓国、とくに現在の文在寅大統領とは、どのように付き合ってゆけばよいのか、経営コンサルタントの大前研一氏が解説する。

文大統領は、任期中に南北統一を実現し、金大中元大統領のようにノーベル平和賞を受賞したいと考えている、と言う識者もいる。だが、その実、統一後のビジョンや構想はゼロである。

たとえば、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が本当に信頼できる人物なのか、仮に統一交渉がまとまったとしても彼にそれを履行する意思と能力があるのか、という最初にクリアすべき根本的な問題について、文大統領は考えたことがないと思う。さらに、「ユナイテッド・コリア」が誕生した場合、その統治機構がどのような形になるのか、誰がどういう手続きでトップに就くのか、ということについても具体的な構想を持っていないと思う。

それかあらぬか、文大統領は、金正恩委員長からもアメリカのドナルド・トランプ大統領からも軽んじられている。現に、6月30日に板門店で開かれた3回目の電撃的な米朝首脳会談で文大統領は蚊帳の外だった。仲介役のはずなのに、ただ脇に立って2人の会談を見ているだけで全く存在感がなく、会談会場になった韓国側施設「自由の家」の主人にすら見えなかった。

とはいえ、今後も文大統領の対日姿勢が変わることはないだろう。なぜなら文大統領は、そもそも祖国分断の悲哀を作った原因は日本の植民地政策であり、それが尾を引いたまま東西冷戦の中で朝鮮戦争が起きたのだから、日本は朝鮮民族に対して“原罪”を負っているという思想で頭のてっぺんからつま先まで固まっているからだ。

これは1965年に結ばれた「日韓請求権協定」で両国およびその国民の間の請求権に関する問題は「完全かつ最終的に解決された」とする日本政府のスタンスとはかけ離れたものであり、この文大統領の信条や歴史認識が彼の“行動規範”につながっている。というわけで、いくら日本政府が文句を言ったり対抗措置や報復措置を繰り出したりしたところで、全くポイントがずれてしまうし、問題の解決にもならないのだ。ここが今回、日韓関係がこじれて悪化の一途をたどっている最大の原因だと思う。

とはいえ、韓国国内の識者の間では文政権の無策や対応のまずさを批判する声が上がっている。これは文大統領も気にせざるを得ない。したがって、私はすでに本連載(第647回、第652回)で述べたように、いま起きている「韓国発」の問題は基本的には放っておけばよい、という意見を変えるつもりはない。文大統領の任期が切れる2022年5月9日まで、毅然として様子見を続ければよいのである。

※週刊ポスト2019年8月16・23日号 2019.08.05 16:00
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