日本国の象徴である天皇や日本人へのヘイト(憎悪)を表したとしかいえない展示だ。それへの反省を伴う全面的な見直しなくして企画展の再開などとんでもない。

 昭和天皇の肖像をバーナーで燃やす映像や、慰安婦を象徴する少女像などを展示し、中止となった国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」のことである。

 文化庁は26日、芸術祭への補助金約7800万円を交付しないと発表した。県が設置した検証委員会が「条件が整い次第、速やかに再開すべきだ」などとする中間報告を出したのを受けた措置だ。

 条件とは、脅迫や攻撃を回避すること、展示方法や解説を改善すること、などである。脅迫を回避できたとしても、ヘイトであることは変わらない。

 そのような展示会を公的な場で行うこと自体がおかしい。実行委員会会長を務める愛知県の大村秀章知事は再開の意向を示したが、そこに公金を支出するなど認められるものではない。文化庁の判断は当然である。

 企画展には、昭和天皇の肖像を燃やす映像も展示されていた。少女像の説明文には英語で「性奴隷制」と書かれていた。天皇を傷つけ、史実を歪曲(わいきょく)する。芸術の名を借りた政治的な宣伝だったと言われても仕方あるまい。

 8月に展示会が始まると、実行委員会には批判が相次いだ。脅迫的なものも多く、企画展は3日で中止となった。脅迫が許されないのは言うまでもない。

 中止は憲法が保障する表現の自由に反する、とする声もあった。しかし、憲法は公共の福祉のために自由や権利を利用する責任を求めている。自由には節度とルールが伴わなければならない。表現の自由は公共の福祉によって制限されるとする最高裁判断もある。

 そもそも、左右どちらの陣営であれ、ヘイト行為は「表現の自由」に含まれず、許されない。当然の常識を弁(わきま)えるべきである。

 中間報告は、トリエンナーレの津田大介芸術監督の責任を厳しく指摘した。大村知事は津田氏を厳重注意としたが、芸術監督に責任を押しつけて再開を強行しようとしているようでもある。脅迫は論外として、筋の通った批判にきちんと応える気があったのか。

 大村知事の責任は免れない。

https://www.sankei.com/column/news/190927/clm1909270002-n1.html
産経新聞 2019.9.27 05:00