【北京=原田逸策】新型肺炎で打撃を受けた企業を支援するため、中国の銀行が14日までに計5370億元(8兆4千億円)の融資を実行したことがわかった。監督当局も新型肺炎が深刻な湖北省では、不良債権が増えても銀行の責任を問わないことで企業の資金調達を後押しする。新型肺炎の収束が見えないなか、中小企業の倒産加速を防ぐねらいだ。

銀行や保険を監督する中国銀行保険監督管理委員会(銀保監会)の梁濤副主席が、15日の記者会見で明らかにした。新型肺炎の感染が拡大した1月下旬以降に新たに融資したり、満期を迎えた融資の借り換えに応じたりした金額を合計。梁氏は「新型肺炎で一時的に困難に陥った企業、とくに中小企業はむやみに貸し渋りや貸し剥がしをしてはならない」と語った。

銀保監会は銀行に不良債権比率を毎年下げるよう要求するが、梁氏は「新型肺炎が深刻な地域では、監督指標の達成時期を猶予したり、柔軟な監督措置を取ったりする」と説明。湖北省では一時的な不良債権の増加を容認する。「不可抗力」として担当行員らの責任を問わない。

不良債権の基準も緩める。新型肺炎で利息返済が多少遅れても不良債権に含めず、企業の信用履歴にも残さない。いったん不良債権に分類されると、追加融資などが難しくなり、企業の資金繰りが苦しくなるからだ。

もっとも、新型肺炎の前から国務院(政府)や銀保監会は中小企業向け融資を増やし、金利は下げるように銀行を指導してきた。ある国有大手銀行の関係者は「中小企業は貸し倒れのリスクが高いのに無理に金利を下げており、劣った企業が淘汰されなくなっている」と打ち明ける。経営が非効率な企業が温存される恐れはある。

新型肺炎の感染拡大で中国の経済活動は滞りが鮮明だ。交通運輸省の劉小明次官によると、1月25日の春節(旧正月)から2月14日までの鉄道、道路、船、飛行機の旅客数は2億8300万人回で、前年同期より82%減った。新型肺炎の拡大で工場や学校の再開が遅れ、古里から都市に戻る人が大幅に減った。

労働者は2月中にさらに1億2千万人、3月以降に1億人が都市に戻る。学生はおよそ1億人が学校に戻る。多くの人の移動で新型肺炎の感染が再び勢いづくことを当局は警戒している。

15日の銀保監会の記者会見では、新型肺炎が非現金化やインターネットによる銀行業務をさらに加速している現実も浮かんだ。

中国人民銀行(中央銀行)の範一飛副総裁は「春節(旧正月)前に緊急に40億元の新札を湖北省武漢市に投入した」と明かした。現地では「現金がウイルスを広める」との懸念があるからだ。

銀行にはなるべく新札を流通させるよう指導している。湖北省内で流通した現金は他省に回さず、病院で使われた現金は消毒して人民銀行が回収している。留学生の学費など海外送金のうち、ネット経由の比率は19年の61%から足元で91%まで上昇したという。

日本経済新聞
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO55694890V10C20A2EA3000?s=4

2020年2月15日 19:00