中国・武漢から広まっている新型コロナウイルス。政府は2月25日、感染拡大を防ぐための基本方針を発表した。
今後1、2週間が拡大か収束かの山場となる。今回の新型はどのようなもので、私たちはどう過ごせばよいのか。

また、今後のシナリオは──。政府専門家会議のメンバーで東北大学大学院医学系研究科の押谷仁教授にインタビューした
(取材は2月23日時点)。(ノンフィクション作家・河合香織/Yahoo!ニュース 特集編集部)

──そもそも、なぜこんなに広まってしまったのでしょうか。

新型コロナウイルスが非常に厄介な性質だからです。感染しても全体の8割は軽症で、無症状の人もいる。
それでは感染者を特定することは困難です。また、感染してから発症するまでの潜伏期間も多くは5、6日間ですが、もっと長い人もいる。
軽症者や、感染しても症状のない人、さらに潜伏期間内の人でも、周囲に感染させている可能性があり、感染連鎖が見つけにくいのです。

──軽症が多いと伝えられますが、重症化して亡くなった人も増えています。

多くの人は重症化しません。高齢者は致死率が高いのですが(中国では80代以上で14.8%)、
重症化した時点で多くの人にウイルス性肺炎が見られます。これにより、肺の多くの部分が機能しなくなります。

──新型コロナウイルスの危険度が高いとわかってきたのはいつ頃でしょうか。

中国・武漢の実際の状況がわかってきた1月15日前後から、報告数よりもはるかに多い感染者がいる可能性があることを知り、
性質の一端を理解できました。武漢の当局は当初、SARS(重症急性呼吸器症候群)と同じ対策を取っていたと考えられます。
でも、今回のウイルスはSARSより感染力がはるかに強かった。しかも症状が見えにくい。僕自身があそこにいても、同じ失敗をしたと思います。

──患者の症状が見えなければ、医療従事者も対処できませんね。

当初はそれほど重症化しないし、感染した人が誰と接触したかという接触者調査でもあまり多くの人を感染させていないように見えたと思います。
しかし、実際には感染したのに軽症の人が大勢いて、その人たちがさまざまな場所でウイルスを広めていた。
このウイルスの特徴に当局が気付いた時には、武漢ではもう手のつけられないような状況になっていた……というのが僕の理解です。

──2003年に広がったSARSと今回の新型コロナウイルスでは、どんな違いがありますか。

SARSでは感染者の多くが重症のウイルス性肺炎を起こし、致死率が10%ぐらいでした。
新型コロナウイルスは現在、致死率は2.3%程度ですが、もっと低い可能性が高いと思います。感染した人が重症化する率はSARSに比べると少ない。
ただし、感染性が非常に高く、むしろ重症者が少ないことが感染連鎖を見えにくくしています。

そのため、ある程度感染が拡がらないと感染連鎖が見えず、各国の水面下で感染が拡がっていると考えられます。
重症化する率は低くても、非常に広範囲に感染しており、その母数が増えた分、新型コロナウイルスでの死亡者数はSARSより圧倒的に多くなっています。

──SARSのときのように封じ込めはできないのでしょうか。

短期的には無理だと思われます。SARSは感染者が中国を中心に、世界で8056人でした。
新型コロナウイルスは、もうどのくらいなのか、本当の感染者数は把握できなくなっています。少なく見積もっても数十万人。
そこまで広まったウイルスの感染連鎖を見つけて、全部潰すことは非常に困難です。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200226-00010000-ytokushu-life&;p=1