アジアだけでなく欧米にまで急速に感染流行地域を広げている新型コロナウイルス(COVID-19)。
エボラ出血熱やHIV・エイズ研究の権威であるピーター・ピオット氏が豊富な知見をもとに、世界は深刻な状況にあると警鐘を鳴らす。

白い無精ひげを生やしたピーター・ピオット(71)がしっかりした足取りで近づいて来て、私に手を伸ばした。
微生物学者である彼は、新型コロナウイルス(COVID-19)のパニックの渦中にあっても、握手は安全だと確信しているようだ。

ピオットは、世界で最も有名な「ウイルス・ハンター」のひとりだ。
だが、彼自身はその呼称に違和感を覚えるそうで、むしろ「ウイルス探偵」と呼ばれるのを好む。

ピオットは27歳のときにエボラウイルスを共同発見し、90年代以降はHIVウイルスとエイズとの闘いを牽引した保健業界の伝説的人物だ。
慣習や権威に興味のない彼は、感染症だけでなく世界中の官僚主義とも闘って来た。

現在は公衆衛生と熱帯医学の世界的な研究機関であるロンドン大学衛生・熱帯医学大学院の学長を務めるピオットは、
非常にチャーミングで友好的な人物でもある。私は彼に昨今、世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスについて話を聞くため、ロンドンでランチを共にすることにした。

世界は騒ぎ過ぎなのか?

「世界はこの新しい感染症に過剰反応している」という意見をピオットはどう見ているのだろうか? 
いまのところ、新型コロナによる死者数は季節性インフルエンザのそれよりずっと少ないのだ。

「私は人を怖がらせて喜ぶタイプではありませんが、現在の状況は深刻だと思います。恐れるに足らずと考える余裕はありません」
セージの葉の天ぷらにかじりつきながら、ピオットはこう続けた。

「本当なら数ヵ月で収束できたはずですが、そのために必要な対応とは反対のことばかりが行われています。
この感染症は問題ないから、特に何もしなくても大丈夫だと判断してしまったんです。

シンガポールやイギリス、ドイツではもっと症例が出ていてもおかしくないと思います。
また、忘れてはならないのは、すでに1000人以上の死者が出ているということです。これは決して些細な数字ではありません」

私がピオットに取材したのは、2月13日だ。すでにこの新型コロナによって世界中で1500人以上が死亡し
編集部注:2020年3月7日時点で感染者数は10万3735人、死者数は3519人)、韓国、イラン、イタリアで深刻な大流行が起きている。
日本はすべての学校を閉鎖し、サウジアラビアはメッカ巡礼を中止した。株式市場は感染拡大が世界経済に与える混乱を懸念して、下落し続けている。

「致死率はいまのところ1%ですが、問題はいったい何人が感染するかということです。
もし100万人感染したとしたら、1万人が死亡することになります」
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200312-00000003-courrier-int&;p=1