2013年9月10日、アルゼンチン・ブエノスアイレスのヒルトンホテルのロビー。国際オリンピック委員会(IOC)の第125回総会最終日のハイライトを控え、IOC委員が三々五々集まった。新たにIOCを率いる委員長が秘密投票で発表されるところだった。IOC史上最も多い6人の候補が乱立した選挙だったが、事実上勝者は決まっていた。「準備されたナンバー2」と呼ばれたドイツのトーマス・バッハIOC副会長(当時)だった。

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◇再選控えたバッハ会長、東京五輪が試験台

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バッハ会長はIOC内外で認められる野心家だ。バッハ会長と親交が深いある元IOC高位関係者は11日、記者に匿名を前提に「私がバッハ会長ならば7月開催を強行したいだろう。無観客で行うこともカードとして考慮していると承知している」と話した。

しかし世界的に新型肺炎問題が深まるほど彼の悩みも大きくなる。彼は12日に独ARDのインタビューで「世界保健機関(WHO)が要求するならば東京五輪開催を断念するほかない」と言及した背景だ。WHOが五輪中止を先に要求する可能性を排除することは難しいが、事実可能性は大きくない選択肢だ。

バッハ会長は野心が大きいだけに敵も多いというのが複数のIOC専門家らの話だ。IOCだけ20年以上取材してきたある米国人記者は匿名を前提に「バッハ会長のリーダーシップに不満があるIOC委員もいると把握している。彼には来年のIOC総会が大きな試験台」と話した。

彼に対しIOC委員は複雑な心境を持っている。バッハ会長特有の強力なリーダーシップとカリスマ性は高く買うがやや強圧的という不満もあるという。彼がロシアやサウジアラビアなど特定地域のリーダーと親密な関係があるという評判もやはり不満の種になる。2013年のIOC総会で彼が「予想された勝者」にもかかわらず3度目の投票まで進む接戦の末に当選を確定できた背景だ。

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◇東京五輪、1940年にも中止になった先例

新型肺炎問題で一刻を争う状況で世界の株価が大暴落しているのに五輪なのかと話す人たちもいる。だが五輪はIOCと安倍政権にとってはとても重要な問題かもしれない。トランプ大統領は12日、安倍首相に「1年延長したらどうか」と提案し、安倍首相がすぐに電話をしたのを見ても安倍首相が東京五輪に死活を賭けていることがわかる。日本は1940年に開催予定だった東京五輪を第2次世界大戦の渦中で中止されたことがある。日本が戦争を起こした責任を問い当時IOCは開催権を剥奪した。開催中止と延期は日本にさまざまな面から悪夢だ。

五輪延期には現実的な問題が山積している。まず数カ月先送りしようというのは事実上不可能だ。五輪放映権料市場で大口である米NBC放送はすでにIOCと東京五輪放送広告で1兆5000億ウォンに達する金額を支払った。NBCとしては東京五輪にそれほど大きな興味をそそられないかもしれない。時差のためだ。数カ月延期するならば米国の主要スポーツイベントであるプロバスケットボール(NBA)とプロフットボール(NFL)のシーズンと重なる。IOCとしてはNBCの立場を考慮しないわけにはいかないのが現実だ。

このため日本国内でも慎重に延期論が出てきながらも「1〜2年」という選択肢に重きを置いている。東京五輪組織委員会の高橋治之執行委員も10日にウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューで「今年開かれないなら1〜2年の延期が最も現実的オプション」と話した。このインタビューをしたアラステア・ゲール編集委員は12日、記者に「(延期という)オプションを考慮していないならば驚くべきこと。しかしまだ決定できていないようだ」と伝えた。

来年に延期するならばIOC委員長の再選と重なり、2022年に延期するならば同年はメガスポーツイベントのボトルネック現象が発生する。2022年には北京冬季五輪に続きカタールでサッカー・ワールドカップも予定されているためだ。

東京五輪に向けた聖火はすでにギリシャのオリンピアで点火された。この聖火を消すことができる最終権限はバッハ会長にある。消すのかやめるのか、それがバッハ会長が解くべき問題だ。

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2020.03.15 11:28

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文在寅大統領(左)が2018年に青瓦台でIOCのバッハ会長から平昌五輪の開催成功など五輪に貢献した功労で勲章を受け取り、記念バッジについての説明を聞いている。[写真 青瓦台写真記者団]