なぜ日韓歴史摩擦はかくも強烈かつ執拗(しつよう)に継続するのだろうか。

現在、最大の争点になっているのは、第二次世界大戦末期に動員された元朝鮮人徴用工の処遇であり、個人賠償を容認した韓国最高裁判所の判決=1=である。

しかし、巨視的に見れば、それらの背後にはより本質的ないし構造的な問題が存在する。

第一に指摘しなければならないのは、歴史摩擦が日本人と韓国人のアイデンティティーの衝突ないし非両立性に起因するという厳然たる事実である。

一般的に、アイデンティティー(同一性)とは、歴史、宗教、文化、言語、習慣、エスニシティー(民族性)などに基づく自己認識であり、他者の承認によって安定化する。

さらに、それを基盤にして、民族的な統合や繁栄を求めるナショナリズムが成立する。

したがって、日韓の歴史的アイデンティティーが衝突すれば、それはナショナリズムと連結して、「反日」や「嫌韓」感情をかきたてざるを得ない。

https://mainichi.jp/articles/20200409/ddm/004/070/007000c
日韓歴史摩擦の構造 アイデンティティーが衝突=慶応大名誉教授・小此木政夫
毎日新聞 2020年4月9日 東京朝刊