韓国の首都圏で新型肺炎の集団感染が発生した。極めて大型のクラスター(感染者の集団)で、それも複数だ。
韓国観察者の鈴置高史氏が背景を読む。

鈴置:5月29日(午前0時段階)の韓国の新型肺炎の新たな感染者は58人。2日間連続で50人を超えました。
韓国政府は「50人」をメドに社会的な活動を規制しています。前日の5月28日は79人で、4月5日(81人)以来の多さでした。

政府は5月28日、首都圏のナイトクラブに対し、5月29日から6月14日まで営業を自粛するよう勧告しました。
今回の感染の震源地となったからです。首都圏の公園や美術館など公共施設も同じ期間、閉鎖します。

5月6日には感染者数の減少を受け「社会的距離をとれ」との指示を撤回――
日本式に言えば「禁・3密」を解除したのですが、首都圏に関しては3週間強で逆戻りしました。

政府にも国民にも緊張感が走っています。大規模感染が初めて首都圏――
ソウル特別市、仁川(インチョン)広域市、京畿道(キョンギド)で起きたからです。
5月28日は84・8%の66人が、29日は58人全員が首都圏での新規感染者でした。

韓国では「TK」と呼ばれる大邱(テグ)広域市とその周辺の慶尚北道(キョンサンプクド)で
2月に感染爆発が起きたものの、首都圏は比較的平穏でした。

ソウル市で新型肺炎による死者が初めて確認されたのは4月8日。
同日までに東京都で35人の死亡が公表されていたのと比べ、いかにソウルが「軽症」だったかが分かります。

東京都での初の死者確認は2月26日で、5月28日午後8時半現在の死者は299人。
一方、ソウルの5月29日午前0時現在の死者は4人です。

感染者数も同様です。5月29日に至っても全体の72・4%がTKの感染者。
全人口の半分を占める首都圏の感染者は16・3%に過ぎません。

首都圏に住む韓国人の間では「新型肺炎はTKの出来事」と、どこか切迫感が薄かった。それが今、ようやくお尻に火が付いた感じです。

――感染源はソウルの歓楽街ですか?

鈴置:韓国の防疫当局はそう見ています。デイリー新潮の「韓国は『防疫の模範』が裏目でクラスター、
それでも『世界を先導』という自己暗示」で言及した、梨泰院(イテウォン)のゲイ・クラブが震源地です。

5月2日にここを訪問した人を皮切りに、5月27日午前0時までに首都圏を中心に257人の感染が確認されました。

これに加え、5月26日には京畿道・富川(プチョン)市の物流センターに、「梨泰院」由来の巨大なクラスターが生まれたことも判明。
富川市はソウル市と仁川市に挟まれた都市です。

当局は直ちに富川市の大型駐車場に臨時検査所を設け、医療関係者62人を派遣。
この物流センターで働く人と訪問者の検査に乗り出しました。検査対象は4159人に上る見込みです。

そうこうするうちに同じ富川市のコールセンターや、ソウルの北西にある京畿道・高陽(コヤン) 市の物流センターにも
飛び火していることが分かりました。5月28日午後9時までに、96人の「物流センター」関連の感染者が発見されました。

防疫当局は「ウイルスの遺伝子は変化していないようだ」としつつも「今回は伝播の速度が極めて早い」と警戒しています。

「ゲイ・クラブに集まる人も、物流センターで働く人も発症しにくい若者が多いため、発見が遅れた」と見る向きもあります。
大邱で新興宗教が巨大クラスターになった時も同様の指摘がありました。いずれにせよ、首都圏初の感染爆発が起きないか、韓国人は身構えているのです。
https://www.dailyshincho.jp/article/2020/05291500/?all=1