米中関係が緊張している。香港の民主派の逮捕、アザー米厚生長官の台湾訪問で対立が頂点に達した感じである。この事態をどう読み解けばよいのだろうか。

 長期的には、アメリカと中国による世界の覇権争いである。現在のパックス・アメリカーナ(アメリカの平和)を死守しようとするアメリカと、それに替わり、パックス・シニカ(中国の平和)を樹立しようとする中国が、あらゆる分野で熾烈な戦いを展開しているのである。

中国が狙う世界一への「返り咲き」
 世界を支配する大国となるためには、軍事、経済、金融、科学技術、文化などあらゆる分野で世界をリードしなければならない。19世紀のパックス・ブリタニカ(イギリスの平和)から20世紀のパックス・アメリカーナを経て、中国は21世紀の覇者になろうという野望を抱いている。中華人民共和国建国100年の2049年には世界一になるのが、習近平の夢である。

 中国の観点からは、歴史上常にGDPでは中国が世界一だったのであり、列強に蚕食された19世紀後半からの150年は例外的な時期であった。そこで、21世紀になって、再度世界一に返り咲き、中華帝国を再興することを目指しているのである。GDPでは日本を抜いて、アメリカに次ぐ第二位にまで来ている。


 その「偉業」を成し遂げつつあるのは、中国共産党の指導の成果であり、それに異を唱えることは許さないというのが習近平の立場である。ところが、先進民主主義諸国、とりわけアメリカが独裁中国叩きの先頭に立っており、それには断固とした対応をとるという決意である。

 中国は、軍事力の強化に余念がなく、とくに海軍力を拡張させて、南シナ海、太平洋へと進出しようとしている。経済的には、アメリカと経済摩擦を繰り返し、アメリが制裁措置に出ると、すぐに対抗措置をとってきた。

 軍事や経済の根底にあるのは技術であり、先端技術分野での競争がアメリカによる中国企業への締め付けに繋がっている。8月13日、トランプ政権は、2018年に成立した国防権限法に基づいて、ファーウェイ、ZTE、ハイテラ、ハイクビジョン、ダーファ・テクノロジー5社の製品を使う企業に対して、アメリカ政府との取引を禁止する規則を施行した。

 アメリカから見れば、中国はアメリカなど先進民主主義諸国の技術を盗んでおり、またその技術を使ってさらに個人情報などを収集し、外交に利用しているというのである。TikTokを禁止しようという動きも、その一環である。

 通信や表現の自由という基本的人権を守るのが民主主義社会であり、先端技術を使ってそれに違反する行為を行うことは、民主主義の守護者であるアメリカは容認できないのである。

(中略)

黎智英や「民主の女神」周庭逮捕に関して思い出すのは1989年6月4日の天安門事件である。自由と民主主義を求めた学生たちの運動は、戦車で潰された。改革開放で中国経済を飛躍的に発展させたケ小平は、人民解放軍に命じて断固とした態度で、民主化運動を弾圧したのである。黎智英は、この事件をきっかけにジャーナリズムにも足を踏み入れ、民主派の支援に踏み切った。

 今回の香港の民主派弾圧は、天安門事件と同様なものと考えてもよい。1997年7月1日の香港返還のとき、先述したように「一国二制度」がいつ反故にされるか分からないという懸念を持つ者は少なく、むしろ30年もすれば中国が西側諸国のように自由な国になっていると考える者が多かった。天安門事件は、参考にならないと思われたのである。

 天安門事件後、中国は先進民主主義諸国から経済制裁を受けるが、翌年には、世界に先駆けて日本が制裁を解除した。これに続いて、なし崩し的に世界は中国との交易を再開したのである。貿易による経済的利益を重視したからである。

 30年が経過した。この30年の間に、中国の経済発展は目覚ましく、GDPでは日本を追い越した。先端技術でも日本より優位に立っている。そして、政治的には、毛沢東時代に逆戻りしたような習近平の独裁体制が強化されている。今回は、世界は、そして日本はどのような対応をとるのであろうか。

 30年後にパックス・シニカとなり、日本が中華帝国の属国(東夷)となる事態だけは何としても避けなければならない。


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https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/61705