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台風8号で被害を受けた黄海南道の農地を視察する金正恩党委員長=朝鮮中央通信ホームページから

台風8号が8月27日、北朝鮮を縦断したのに続き、台風9号は9月3日に北朝鮮東岸沖を進んで大雨被害などをもたらした。10号も7日から8日にかけて朝鮮半島に接近・上陸する見通しだ。
北朝鮮は今、経済制裁や新型コロナウイルスの感染拡大に伴う国境閉鎖、相次ぐ水害という厳しい事態に直面している。さらに相次ぐ台風災害。大量の餓死者を出した1990年代の「苦難の行軍」の再来はあるのだろうか。

朝鮮中央通信は8月28日、朝鮮労働党の金正恩委員長が黄海南道の台風8号の被災地を視察したと伝え、事態を重視していることをうかがわせた。

北朝鮮は1月末の国境閉鎖などの影響で、全体の9割以上を占める中朝貿易量がすでに前年度よりも7割近く減少している。8月上旬には大雨被害が発生。朝鮮中央通信によれば、大雨被害で、農作物の被害面積が3万9296ヘクタールに及んだほか、住宅1万6680戸と公共建物630棟が破壊、浸水し、多くの道路、橋、鉄道が断絶されて発電所のダムが崩壊した。

金正恩氏は8月13日に開いた党中央委政治局会議で「今、わが国は(新型コロナウイルスなどに対する)防疫戦を展開するとともに、予想外の自然災害という二つの挑戦と闘わなければならない難関に直面している」と訴えた。

実際、北朝鮮各地では今年に入り、「第2の苦難の行軍がやってくる」という不安の声が聞かれている。苦難の行軍とは、1990年代半ばに北朝鮮を襲った配給システムの崩壊と食糧危機のことだ。脱北者たちは、あちこちで餓死した人々を目撃したと証言する。当時、亡くなった人は、100万とも200万とも言われる。

実際、国境閉鎖に伴い、中国産に頼る小麦粉や食糧油、砂糖などの物資が不足するのではないかという指摘が出ている。農作物の栽培に欠かせない肥料やビニールの輸入も滞っている。

ただ、当時は配給を前提とした社会体制が敷かれ、市民たちの移動や経済活動はかなり制限されていた。配給の再開を待つだけで何もせずに餓死した人も大勢いたとされる。北朝鮮は現在、全国に400カ所以上の公営の市場が設けられているほか、市民たちの副業も相当部分が黙認されている。

北朝鮮市民に「生き抜く力」が備わった現在、「第2の苦難の行軍」はあり得ないとする見方もある。それでも再び、食糧危機が北朝鮮に訪れることがあるのだろうか。

(続く)

朝日新聞社 GLOBE+ 9/4(金) 11:28
https://news.yahoo.co.jp/articles/77ac2152a6ec71bad9eb72e1e836b0d2862beb77