『皆さん…私が授業をするのはこれが最後です。アルザスとロレーヌの学校では、ドイツ語しか
教えてはいけないという命令が、ベルリンから来ました… 新しい先生が明日見えます。今日は
フランス語の最後のお稽古です。どうかよく注意してください』
この言葉は私の気を転倒させた。ああ、酷い人達だ。役場に掲示してあったのはこれだったのだ。
フランス語の最後の授業!…
それからアメル先生は、フランス語について、次から次へと話を始めた。フランス語は世界で一番
美しい、一番はっきりした、一番力強い言葉であることや、ある民族が奴隷となっても、その国語
を保っている限りは、その牢獄の鍵を握っているようなものだから、私達の間でフランス語をよく
守って、決して忘れてはならないことを話した。それから先生は文法の本を取り上げ、今日の稽古
のところを読んだ。あまりよく分かるのでびっくりした。先生が言ったことは私には非常にやさし
く思われた。私がこれほどよく聞いたことは一度だってなかったし、先生がこれほど辛抱強く説明
したこともなかったと思う。行ってしまう前に、気の毒な先生は、知っているだけのことをすっか
り教えて、一どきに私達の頭の中に入れようとしている、とも思われた。

日課が終ると、習字に移った。この日のために、アメル先生は新しいお手本を用意しておかれた。
それには、見事な丸い書体で、「フランス、アルザス、フランス、アルザス」と書いてあった。
小さな旗が、机の釘にかかって教室中に翻っているようだった。皆どんなに一生懸命だったろう!
それになんという静けさ!ただ紙の上をペンのきしるのが聞こえるばかりだ。途中で一度こがね虫
が入ってきたが、誰も気を取られない。小さな子どもまでが、一心に棒を引いていた。まるでそれ
もフランス語であるかのように、真面目に、心をこめて…

突然、教会の時計が十二時を打ち、続いてアンジェリュスの鐘が鳴った。と同時に、調練から帰る
プロシア兵のラッパが私達のいる窓の下で鳴り響いた…
アメル先生は青い顔をして教壇に立ち上がった。これほど先生が大きく見えたことはなかった。

『皆さん、』と彼は言った。『皆さん、私は…私は…』しかし何かが彼の息を詰まらせた。彼は言
葉を終ることができなかった。そこで彼は黒板の方へ向き直ると白墨を一つ手に取り、ありったけ
の力でしっかりと、出来るだけ大きな字で書いた。

『フランス万歳!』

【アルフォンス・ドーデ「月曜物語」〜最後の授業〜】