米共和党のトランプ大統領と民主党のバイデン候補による初回のテレビ討論会が行われ、内政問題がテーマとなった。

 だが、米国は依然、世界で最も強く、影響力のある国である。国際秩序を維持していく上で、米大統領の果たす役割は極めて大きい。討論会では初回から中国問題を論じてもらいたかった。

 米大統領選は、内政上の課題が争点の大半を占めるのが通例である。今回も、2人の実績や最高裁人事、新型コロナウイルス禍、経済、人種問題と暴力、選挙のあり方の6つがテーマとなった。

 このテーマ選び自体が米国の内向き志向を示している。覇権主義的行動が目立つ中国にどう対峙(たいじ)していくかが真っ先に争点にされなかったことで、中国共産党政権はほっとしているだろう。

 討論会では、2人とも個人攻撃を交えつつ持論を展開するばかりで、議論が深まったとはいえない。米国民だけでなく世界が注視している。残り2回の討論会では外交安全保障を含む政策論争を深めてほしい。

 オバマ前政権の医療保険制度の是非など双方の主張は平行線をたどり、相手を論破するものにはならなかった。司会者が「米国民は中身のある議論を聞きたいのだ」と言ったのもうなずける。

2人の実績について、トランプ氏は「バイデン氏は(中央政界にいた)47年間何もしていない」とこきおろし、バイデン氏はトランプ氏を「うそつき」「史上最悪の大統領だ」と決めつけた。

 コロナ禍をめぐっては、トランプ氏が米国の経済と雇用を回復軌道に乗せつつあると主張すると、バイデン氏は、経済回復や学校の再開を急ぐトランプ氏の姿勢を批判した。

 それも大事な論点だが、コロナ禍は経済や雇用にとどまらない影響を米国や世界にもたらしている。中国・武漢発のコロナ禍によって乱れた世界の秩序を、米国のリーダーとして、どう立て直すのかを語ってもらいたかった。

 特にコロナ禍に乗じて、覇権主義的行動を強めている中国との関係をどうしていくかは、経済を含む世界における米国の国際的地位にも大きく関わる。

 両候補は今後の討論会で、米国が世界に果たす責任への言及と、そのための具体的政策を率先して語るべきである。

産経新聞 2020.10.1 05:00
https://www.sankei.com/column/news/201001/clm2010010003-n1.html