【ストックホルム=板東和正】国連安全保障理事会の制裁を避けて武器輸出を試みる北朝鮮の実態を暴露したデンマーク人の映像ジャーナリストらによるドキュメンタリーが公開され、欧州諸国が北朝鮮への警戒を強めている。北朝鮮が武器輸出で外貨収入を稼いでいることが懸念される中、デンマークとスウェーデンの両外相は安保理の北朝鮮制裁委員会に警告を促し、欧州連合(EU)でも問題提起する考えを示した。

 ドキュメンタリーの題名は「ザ・モール(スパイの意味)」。デンマーク人の映像ジャーナリスト、マッツ・ブリュガー氏が監督を務め、英BBC放送や北欧のテレビ局で今月11日に放映された。ブリュガー氏の指揮の下、デンマーク人の元シェフの男性と、フランス人の元軍人の男性が実業家や投資家などを装い、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)体制とつながりを持つとされる国際団体に約10年間かけて潜入。北朝鮮側と武器取引について協議する様子を隠しカメラなどで撮影した。

 ドキュメンタリーでは、北朝鮮側が輸出できるミサイルなどの一覧を2人に提示する場面や、国際団体の関係者が武器取引の協議で「われわれは最高権力者の金朝鮮労働党委員長にじかに連絡できる」と2人に話す光景が映されている。

 また、2人は2017年に平壌を訪れ、アフリカ東部ウガンダの島に武器や覚醒剤を製造する地下工場を建設する偽の契約を北朝鮮側と締結。元シェフの男性が、在スウェーデン北朝鮮大使館の外交官から工場建設の計画書を受け取る場面の撮影にも成功した。

北朝鮮制裁委専門家パネルのヒュー・グリフィス元調整官は英BBC放送に「(ドキュメンタリーの映像は)非常に信憑(しんぴょう)性が高い」と発言した。

 英メディアによると、ブリュガー氏は過去に北朝鮮を訪問したドキュメンタリーを制作し、武器輸出の問題に関心を抱いていた。元シェフの男性は冷戦時代に東ドイツに住んでいた経験があることから、南北に分断した朝鮮半島の歴史にも興味を抱き、制作の参加を決めたという。男性は現在、安全な場所で保護されている。

 ドキュメンタリーの公開を受け、デンマークとスウェーデンの外相は12日に発表した共同声明で「深い懸念」を表明。国連の制裁委員会に警告する任務を自国の国連大使に課すことを明かし、「EUでもこの問題を提起する」とした。一方、ロイター通信によると、北朝鮮の在スウェーデン大使館は15日、デンマークの新聞社に送付した書簡で「(ザ・モールは)北朝鮮のイメージを傷つけることを目的としており、最初から最後まで捏造(ねつぞう)だ」と抗議した。

産経ニュース 2020.10.19 10:47
https://www.sankei.com/world/news/201019/wor2010190009-n1.html