韓国史の「スター講師」が、論文盗用の渦中にある。

 その人、ソル・ミンソク氏については、前回の記事(「韓国、『反日』エスカレートでついに米国も敵扱い」https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/63593、2021年1月12日)のなかで紹介した。

 ソル氏についてはその記事で終わりにするつもりだった。だが、論文盗用事件を取り巻く韓国社会の反応が興味深いので、彼のことをもう一度だけ取り上げることにした。またその関係上、前回の記事ではあえてスルーしたソル氏の似非(えせ)歴史講師ぶりについても、後半で触れる。

 ソル氏とは、大人だけでなく子どもにもわかりやすい語り口で、古代から現代までの「韓国の歴史」を長年にわたりテレビで講じてきた人物である。韓国近代史で日本のことを語るときには表情をこわばらせて反日感情を露わにする。その反日感情はどんどんエスカレートし、私が視聴した昨年(2020年)末の番組では、戦前の朝鮮半島での日本の“悪行”を見てみぬふりをしたという理由から、反米感情までも煽っていた。

 ところがその放送からわずか3日後の12月29日、ソル氏は自身の修士論文に盗用があったことを認め、すべての番組からの降板を発表したのだ。

日本の朝鮮支配を厳しく糾弾したソル氏
 ソル氏の韓国史観は、韓国的という意味で分かりやすい。朝鮮半島に勃興した国々は、本来は理想とする姿を実現して繁栄を成し遂げるだけの力があったはずだが、常に外国からの力に圧迫されたため、それができなかったというものだ。

その典型が、20世紀初頭における日本による朝鮮半島支配だという。朝鮮を搾取した存在として大日本帝国を糾弾するとき、必ずと言ってよいほどソル氏の語調は強まる。

 韓国の教育現場で韓国史を講じることは「正義」を講じることだと思っている教育者は多い。だから、小学校高学年から高校までの歴史教育では、往々にして偏見に満ちた歴史教育が行われる。2019年10月にはソウル市の仁憲(インホン)高校の学生が、教師から反日行為を強制されたと告発している。

 ソル氏もまた、そういう歴史教育者の1人であった。朝鮮を支配した日本を吊し上げ、そのうえで、日本支配がなければ朝鮮民族が達成しえたであろう栄華を論じるソル氏の講義を聞くことは、韓国的歴史観に染まった人には快感であったはずだ。

 ところが、そうした正義の男が、なんと、修士論文で盗用していたのだ。私もそこまでは予想していなかった。韓国の経験値がまだ足りないのだろう。

間違いだらけの歴史講義
 問題の論文は、2010年に延世大学教育大学院に提出された『韓国近現代史の教科書叙述に顕われる理念論争研究』である。韓国メディア各社によると、盗用率は52%、盗用元は2008年にある大学院生が執筆した論文と報じられている。つまり、半分以上が他人の論文からそのまま丸写しされていたり、言葉遣いだけ変えられていたのだ。

(略)

それよりもこれが韓国かと改めて思ったのは、論文の盗用を報じるニュースのコメント欄を見ると、ソル氏を擁護して応援する書き込みが圧倒的に多いことである。

「ソル氏のおかげで子どもが歴史に興味をもった」や「韓国の歴史がこんなに面白いと思わなかった」といった言葉が並んでいる。

 それはそうだろう。なぜなら、ソル氏が語ってきたのはファンタジーなのだから。

 日本では「反日映画」と呼ばれる日本時代を題材にした韓国映画は、事実と創作をごちゃ混ぜにして、ファンタジーでストーリーを膨らませたエンタテインメントである。「悪しき日本は成敗されるべき」と思う人たちにとって、それは快楽以外の何物でもない。

 韓国社会は、事実に忠実である前に、そうした韓国的正義の快楽を求めるのだ。

 そうした需要があるのだから、ソル・ミンソク氏は、またどこかで復活を遂げるに違いない。

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/63624