任期が残り1年を切った韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領。レームダック(死に体)化が進んで退任後の身の上も怪しくなっており、求心力を取り戻すためにも経済のテコ入れを迫られている。窮余の策として収監中の李在鎔(イ・ジェヨン)サムスン電子副会長の赦免論が浮上、財閥改革を掲げてきた文政権だが、結局は財閥頼みか、それともあの国に頼るのか。



 大統領の再任が認められていない韓国で、退任後の文大統領の処遇をめぐる不穏な報道があった。15日の中央日報(日本語電子版)によると、無所属の洪準杓(ホン・ジュンピョ)議員が「李在明(イ・ジェミョン)京畿道(キョンギド)知事が大統領になれば、文大統領は1年内に監獄に行く可能性がある」との見解を示した。

 「韓国のトランプ」と呼ばれる李知事は与党「共に民主党」の有力候補で、対日強硬派として知られる。党内では文大統領と距離があるとされることがこうした見方につながっているようだ。

 野党は尹錫悦(ユン・ソクヨル)前検事総長の擁立を模索しており、こちらも文大統領と敵対している。

 文大統領は10日に行った演説のなかで、未曽有の経済危機に直面しているとの認識を示すとともに、「より迅速で、より強力な経済回復を果たしていく」とも語った。11年ぶりとなる4%以上の成長率の達成を掲げた。

 聯合ニュースによると、演説後の質疑応答で、サムスングループ経営トップの李副会長について、経済界などから赦免を求める嘆願書が提出されているとして、「現在半導体競争が世界的に激化しており、競争力をさらに高めていく必要があることは明らかな事実だ」と言及した。

 韓国事情に詳しい朝鮮近現代史研究所所長の松木國俊氏は「財閥の解体を目指してきた文大統領が李副会長を赦免したいはずがなく、支持率回復の効果があって初めて考慮する話だろう。経済成長の目標を達成するにはサムスンに代表される財閥に頼るしかない状況だ」と指摘する。

 サムスンの今年1〜3月期の業績はスマートフォンが好調で営業利益が前年同期比45%増だったが、半導体部門の営業利益は16%減少した。

 最先端の半導体製造ラインでも、ファウンドリー(受託製造会社)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が大きくリードしている。

 松木氏は「TSMCは日本、米国や台湾で積極的な研究開発や設備投資を行っているが、サムスンはトップ不在で中長期的な戦略を描けない状況にある」とみる。

 朝鮮日報(日本語電子版)は、サムスンが世界首位を守ってきたメモリー半導体事業でも米国メーカーに技術で逆転を許すなど「中心的な経営陣が数年にわたり、捜査、裁判、収監されている間、ライバル企業が攻撃的な投資でサムスンとの格差を縮めている」と報じた。

 そこで赦免論が現実味を増しているのだが、李副会長は朴槿恵(パク・クネ)前大統領らへの贈賄罪などに問われ、17年に懲役5年の実刑判決を言い渡されたが、18年に高裁で懲役2年6月、執行猶予4年に減刑。だが19年に最高裁が執行猶予付きの判決を破棄し、今年1月の差し戻し控訴審で懲役2年6カ月の実刑判決を受けて収監された。

 文大統領も「国民の共感を考えなくてはならない」と述べており、前出の松木氏は「現状では文政権は財閥ではなく、経済的に依存関係にある中国との経済協力をすることなどが支持率回復の秘策となるとみられる」と推察する。

 コロナ禍での経済不振だけでなく、不動産政策の失敗による価格高騰や政府傘下の韓国土地住宅公社職員による土地の不正投機疑惑で国民の怒りは募っている。

 韓国の世論調査会社、リアルメーターが10日に発表した文政権の支持率は、3ポイント上昇し36・0%とやや下げ止まっているが、政党支持率では与党「共に民主党」が最大野党「国民の力」に5・1ポイントの差を付けられており、来年3月の次期大統領選は予断を許さない。

 引き続き財閥企業は厳しい風当たりを受け、不安定な経済状況が続くことになるのだろうか。

https://news.yahoo.co.jp/articles/845c5afe7ff5d53c2f4f9323ed027fcc71f97c02