米韓首脳会談でワシントンを訪れた文在寅大統領は、ペロシ下院議長から慰安婦問題について話を振られたのに反応しなかった。ここぞとばかりに日本批判を展開する「好機」をスルーしたのだ。「対日」で沈黙の真意を、NHK「国際報道」前キャスターの池畑修平氏が読み解く。

あっさり聞き流した?
時には、何も語らないことが結果的に何かを伝えることにもなる。

米韓首脳会談でワシントンを訪れた韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が5月20日に、米議会下院のナンシー・ペロシ議長と会談した際のことだ。青瓦台(韓国大統領府)によれば、ペロシ議長は慰安婦問題について切り出し、こう述べた。

「正義が実現されるのを見たい」

また、ペロシ議長は、2007年に議会下院が慰安婦問題に関して日本政府に謝罪を求める決議を採択したこと、彼女自身、日本の安倍首相と面会した際に複数回にわたって慰安婦問題に言及したことも説明したという。

これに対して、文在寅大統領は、とくに反応を示さなかったというのだ。

意外な印象を受ける。

近年、韓国の大統領たちが慰安婦問題をはじめ歴史をめぐる日本との葛藤について国際社会に向けて日本を批判することは珍しくなかった。ましてや、歴史問題で日本に強硬な発言が目立つ文在寅大統領は、慰安婦問題の「最終的、不可逆的」な解決をうたった2015年の政府間合意をあっさりと骨抜きにしてしまっている。

それが、わざわざペロシ議長の方からこの慰安婦問題について話を振られたのに、その「好機」をとらえることなく、聞き流したことになる。

会談内容の発表をめぐる混乱
不可思議な出来事も起きた。

この文・ペロシ会談について、青瓦台がワシントンで最初に発表した報道資料では、文在寅大統領が日本との関係について「日本はとても重要な隣人であり、韓日関係の未来志向的な発展に向けた確固たる意思を持っている」と述べたと記されていた。当然、韓国メディアはそれに基づいて本国に記事を送信した。

ところが、あとになって青瓦台が訂正し、文在寅大統領から日本との関係についての発言はなかったとした。当初の「韓日関係の未来志向的な発展」といった内容は、事前に作成された想定問答にあっただけだったという。
 
青瓦台の広報部門の単なるミスだろうか。だとすれば軽率の誹(そし)りは免れないが、そうだという前提のもとで文・ペロシ会談を深読みすると、一つの可能性が見えてくる。

文在寅大統領は、日本との関係改善に向けて何か手を打とうとしているのかもしれない。

つまり、こういう流れだったのではないか。彼は想定問答のとおり、日本について前向きな発言をすべく準備をしていたのだが、ペロシ議長の方から慰安婦問題を提起されるとは想定していなかった。議長の強い問題意識に呼応して日本を批判すれば大統領の支持基盤である進歩派の国民は喝采するかもしれないが、今はそうすべきでない。

かといって、想定問答のとおりに「日本はとても重要な隣人」などと述べては、まるで議長の問題提起に否定的な考えを示すかのように響き、韓国内で猛烈な批判を浴びることが目に見えている。わずか1〜2秒の間にこうした逡巡をめぐらせ、結局、何も言わないことに決めたのではないか。

米韓が結んだ「ディール」?
こうした流れであったとすれば、なぜ今は日本を批判すべきでないと文在寅大統領は考えていたのか。

もちろん、「国交正常化以降、最悪」と呼ばれて久しい日韓関係を改めて冷え込ませても意味はない、という一般論(そして日本からすればそれは肯定的だ)は成り立つのだが、そうシンプルな話ではないように思える。

実は、今回の訪米に先立ち、韓国の新聞「毎日経済」がスクープと銘打って興味深い記事を掲載している。昨年末、青瓦台の国家安保室や外務省を中心に、文在寅政権は大統領選挙で勝利したバイデン氏の陣営に「米国と北朝鮮との関係は、前のトランプ大統領が金正恩委員長(当時)と署名した『シンガポール宣言(共同声明)』を継承してほしい」と働きかけたという。

全文はソース元で
https://news.yahoo.co.jp/articles/219dee82608f5972fc707fe76020e63da073a701
https://amd-pctr.c.yimg.jp/r/iwiz-amd/20210525-00000001-courrier-000-1-view.jpg