日韓関係に改善の兆しが見られない中、韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領の任期が残り半年となった。

 対日政策に重きを置かない文政権下で関係は冷え込んだ。文氏は問題を先送りせず、日韓の間に刺さっているトゲを抜く努力を最後まで尽くすべきだ。

 影響は安全保障面にまで及んでいる。北朝鮮が先月、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を発射した際には両国の発表が食い違った。日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)が有効に機能しているのか疑わしい。

 経済への打撃も広がっている。先日オンラインで開かれた日韓経済人会議では、企業活動への悪影響を指摘し、関係悪化に危機感を募らせる参加者が目立った。

 懸念されるのは、元徴用工の訴訟で差し押さえられた日本企業の資産が売却によって現金化されることだ。文氏は1月の記者会見で「望ましくない」と語ったが、問題解決へ向けた具体的な動きは取っていない。

 売却のための司法手続きは進んでおり、文氏の任期内に実行される可能性もある。そうなれば日本側は対抗措置を取らざるを得なくなる。関係のさらなる悪化は避けられない。

 日本側にはもともと、文氏に対する強い不信感があった。慰安婦問題の「最終的解決」を確認した2015年の政府間合意を骨抜きにしたからだ。

 本来、米中対立や北朝鮮情勢への対処で協力すべき隣国同士である。ともに高度なデジタル関連技術を持つ産業国であり、経済安保上も重要な供給網(サプライチェーン)の構築で連携することが欠かせない。

 にもかかわらず日本は、戦略物資である半導体素材の韓国への輸出規制を強化した。徴用工問題での事実上の対抗措置だが、韓国側の強い反発を招いただけでなく、日本企業にも実害が出た。

 文政権は輸出規制の撤回を求めてきたが、安倍・菅両政権は取り合わなかった。岸田文雄首相にも対韓政策に積極的に取り組もうとする姿勢は見えない。

 それでは何も動かないだろう。文氏に行動を促すためには、むしろ日本側から対話の姿勢を示す方が賢明なのではないか。

毎日新聞 2021/11/12 東京朝刊 https://mainichi.jp/articles/20211112/ddm/005/070/089000c