東京都武蔵野市が外国籍の住民にも投票権を認める住民投票条例の制定を進めている。市政の課題を問うための投票で、外国人を含む多様な意見を地方自治に反映する機会ととらえたい。

 松下玲子市長が先月、市議会=写真=に提案した住民投票条例案は、住民登録して三カ月以上、十八歳以上の市民に国籍に関係なく投票資格を認めている。有権者の一定の署名が集まれば、投票を実施する「常設型」条例で、市長や議会に投票実施の拒否権は認められていない。

 一九九〇年代後半に始まった住民投票実施の条例制定のうち、永住外国人にも投票権を認める動きは二〇〇二年の滋賀県米原町(現米原市)に始まり、愛知県高浜市などが続いた。武蔵野市のように居住期間を要件とし、国籍を問わない条例は神奈川県逗子市、大阪府豊中市に先例がある。

 住民投票条例に限らず、条例は法律に反しない範囲で定められる。日本の法律に外国人の住民投票の権利を制限する規定はなく、投票資格者を自治体で定めることに法的問題はない。にもかかわらず、武蔵野市の動きに反対する人たちが市役所前に押しかけ「外国人が選挙権を持つことになる」「外国人が大挙して移住し、市政を乗っ取られる」とヘイトスピーチまがいの主張を繰り返している。これらは制度を曲解した言い分だ。

 武蔵野市の住民投票条例は投票結果に法的拘束力がなく、公職選挙法に基づく通常の選挙権とは異なる。住民投票実施には一定数の署名が必要で、多くの外国人が移住するだけでは難しい。

 住民投票条例に詳しい武田真一郎成蹊大教授(行政法)によると、これまで行われた住民投票のうち外国人に投票を認めた条例は二百件を超える。現在は外国籍住民の登録制度があり、定住者を把握しやすいため、武蔵野市型の条例はさらに増えるだろう、とみる。

 地域の大事な課題に意見を表明することは、表現の自由として保障された基本的人権だ。国際協調や多様性が重視される時代には、同じ街に住む外国人の意見も、街の特色を生かした地方自治の一つとして尊重されるべきである。

東京新聞 2021年12月2日 07時27分
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