英国で開催されたG7(先進7カ国)外相会合では、東アジアで軍事的覇権拡大を進める中国や、ウクライナ侵攻が懸念されるロシアに対し、自制を求める議長声明やG7外相声明が発表された。中露の海軍艦隊は10月、日本列島をほぼ一周する合同演習を実施したうえ、両軍の爆撃機が11月、日本周辺を飛行する特異な行動を続けている。「ウクライナ侵攻と台湾有事が連動する」という分析もある。岸田文雄政権と、ジョー・バイデン米政権、台湾の蔡英文政権は、複数の危機が同時多発的に発生する「複合危機」にどう対峙(たいじ)するのか。外交評論家の加瀬英明氏が考察した。



この2カ月の間、中国とロシアのミサイル駆逐艦や、両国の爆撃機などが腕を組んで、日本列島のすぐわきをかすめて飛行・航行した。

一体、「中国龍」と「ロシア熊」は何を目論(もくろ)んでいるのだろうか? 龍は熊の耳もとに何を囁(ささや)いていたのだろう。

日本と米国、英国、ドイツ、フランス、オランダ、オーストラリア、インドなどの海軍が、中国に対抗してインド洋から極東までの自由航行を守るために、頻繁に共同訓練を行っている。それに張り合って、龍が熊を誘ったのだろうか?

中国の習近平主席の大きな夢は、台湾を回収(統一)≠キることだ。台湾さえ占領できれば、「5000年の偉大な中華文明の復興」をやりとげて、目障(めざわ)りな日本をはじめとしてアジアを支配することができる。
だが、ロシアは日本を威嚇するために、数機の飛行機か、数隻の艦艇を提供しても、中国と共同して台湾に侵攻することはあり得ない。

ロシアはヨーロッパで忙しいから、アジアの戦争に巻き込まれたくない。習主席は、ロシア軍が台湾侵攻を手助けすることは期待できない。

11月に米国のアントニー・ブリンケン国務長官が、「ロシア軍が来年1月以後に、ウクライナに侵攻する可能性が高い」と警告した。

日本の新聞やテレビも、ロシアが10万人近い部隊をウクライナ国境に集結して、侵攻する構えをとっていると報じている。

ウクライナは日本から8500キロも離れているが、ロシアと国境を接している。ウクライナ東部ではロシアの支援を受けて、政府軍と戦闘が続いている。

バイデン米大統領は「ウクライナの主権を守る、われわれの誓約を確認する」と語った。

ロシアは2014年に、ウクライナのクリミア半島に白昼堂々侵略して、自国領土とした。だが、この時に、米国もヨーロッパ諸国もロシアに経済制裁を加えただけで動かなかった。

バイデン大統領は2回にわたって、「米国が台湾を守るという決意は巌(いわお)のように固い(=ロック・ソリッド)」と言明している。

もし、ロシア軍がウクライナに大挙侵攻したら、米国、ヨーロッパ諸国は見捨てておけない。当然、アジア太平洋が手薄になる。

龍はその隙を狙って、台湾に躍りかかるのではないか。

もう一つ、心配な地域がある。アフリカだ。

■加瀬英明(かせ・ひであき) 外交評論家。1936年、東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、エール大学、コロンビア大学に留学。


夕刊フジ公式サイト 2021.12/15 06:30
https://www.zakzak.co.jp/article/20211215-5PYC2EKOCZLW5GTBA4VOYTUWIM/