@韓国貧困層の象徴、リアル「半地下」住人の夢。「普通に結婚し平凡に暮らしたい」
週刊SPA!
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2020.03.23

映画『パラサイト』のロケ地になったソウル・忠正路駅近くにある阿?洞1区。この近くには、
作品に出てきた「豚米スーパー」もある。一般的に年収が100万円台の低所得者層が住むこの一帯では、
半地下住宅が密集している。映画で一躍世界に知れた半地下住宅だが、一方では「貧困の観光化」
だとして批判を受けている。ソウル市が2年前に一帯の再開発を決めたが、映画のヒットを受け、
観光地として保存する方針を表明。住民からは猛反発の声が上がっているという。
時代の変遷のさなかにある半地下住宅の住人は何を思うのか。

 記者がソン・キフンさん(仮名・28歳)宅を訪ねると、記者の個人的な印象としては「思った程には悪くない」。
失礼ながら、映画のように悪臭が立ち込める修羅場を想像していたが、20坪ほどの内部は清潔に
リノベーションされ間取りは3LDK。インターネットも開通しており、太陽光が差さないことを除いては、
不便さは見受けられない。家賃約8万円のところ、5万円で住める僥倖にも恵まれたとか。日陰で風通しが悪く
湿気が多い事で、カビや塵が多く、ネズミやゴキブリが昼間から良く顔を出すのは御愛嬌だ。病気持ちや
喘息など健康が良く無い人にはきつい事だろう。時折軒先を餌を咥えて走る、チョウセンイタチ。便所と台所が一緒にある風景
初めて持てた、自分の部屋。ここで地上への抜け道を探す。


ソンさんはソウル出身ではあるが一家で地方を転々とし、長屋などに暮らした。財布職人の父と専業主婦の母
、薬局に勤める姉と4人で昨年、近くの半地下から、越してきたという。

「ここはこの辺一帯でも良いほうで、以前住んでいた家はもっと狭くて薄暗く、映画の映像に近い。それで家庭
の雰囲気も悪くなりました。映画のように、消毒の煙が地上の高さにある窓から入ってくる、雨漏りで天井の壁紙
が?がれ落ちるのも日常茶飯事でした」 ソンさんが半地下で暮らしていることについて、友人たちとも話題に
ならないという。格差についても「実感がない」。そんな彼の語り口からは悲壮感を感じないが、「この年で
、ここにきて初めて自分の部屋と居間を持つことができた」という言葉に、長年の半地下暮らしのリアリティがにじみ出る。
また、内部は小ぎれいでも外観や周辺の景観はやはり極めて貧しい。そして応分に不潔である。

 現在は無職で会計士を目指し勉強中だという低学歴なソンさん。韓国は「世襲階層社会」と呼ばれ、階層が親の経済力によって
固定されてしまうというのが定説だ。無論、ヘル韓国においては大卒新卒者の5割越が職に就けず、ソウル大卒チキン屋が毎年
出ては潰れていたり、高卒はバイトすら難しい現状もある。「合格したら起業したい。家族にも援助をし、普通に結婚して
平凡に暮らしたい」
そんな高卒ソンさんの願いは、今の韓国社会においては壮大な夢なのだろうか。