どのような組織でもトップの仕事は決断することであるが、そこに至るまでの間にきちんとした部下がいることが大前提だ。その意味では、トップとしてまともに仕事ができるかは、人事にかかっている。

岸田文雄政権の最初の党・閣僚人事で、安全保障の観点から東アジア情勢と新型コロナウイルス対応はともに「有事」と言ってもいいので、外務、防衛、厚生労働、ワクチン担当の各大臣は留任だと思っていた。しかし、蓋を開ければ外務、防衛こそ留任だったが、厚労、ワクチン担当相が代わったのは筆者として意外だった。

菅義偉前首相は、厚労省に任せておくとワクチン接種は遅れるので、総務省を使ってワクチン担当相を新設し、河野太郎氏を任命した。そのおかげもあってワクチン接種のスピードは先進国で最速となった。

ところが、岸田政権では事実上、先祖返りしてしまった。後藤茂之厚労相は当初、8カ月たたないとブースター接種はできないという厚労官僚に乗せられたようだ。堀内詔子ワクチン担当相は、河野前大臣と比べると見る影もない。

そもそも大臣が代わると、官僚からの業務レクチャーで2週間くらいの時間が取られる。しかも、新閣僚になってすぐ衆院選に突入したので、新閣僚がどこまで役所の事務を理解できたのか不安な面もあった。

かつて舛添要一氏が約2年にわたり厚労相を続けたことがあったが、当時は新型インフルエンザ対策が課題になっていた。

厚労、ワクチン大臣の他にも岸田政権の誤算があった。政権発足直後の衆院選で、幹事長だった甘利明氏が小選挙区で落選、比例復活となった。甘利氏は幹事長を辞任し、茂木敏充外相が後任幹事長に回った。そして後任の外相に就いたのが林芳正氏だった。

林氏は、父の義郎氏とともに親子二代で日中友好議員連盟の会長を務めている。米シンクタンクは同連盟について、中国共産党が対日政治工作に利用していると指摘。米国防情報局も、人民解放軍が同連盟を含む友好団体を利用することがあるとしている。

このため、安倍晋三政権や菅政権とは異なり、米国政府は日本政府の対中方針の変化に注目しているとみられる。

もともと岸田首相の出身母体である宏池会は親中勢力が強いとされ、林外相になったので警戒感が強くなったとも考えられる。岸田政権で日米首脳会談が約3カ月も実施されなかったのは、米政権側の内政問題やコロナ問題のみならず、岸田政権の対中姿勢の不透明さも一部関係していたのではないか。

北京五輪の政治的ボイコットでは、日本の態度表明があまりに遅すぎたので、米国側の懸念を十分に解くには至らなかっただろう。外交・安全保障では、岸信夫防衛相は安定感があるが、林外相は対中姿勢で一抹の不安は否めない。

本コラムで再三指摘しているように、岸田政権はあまり仕事をしているとはいえない。一方でその本質を浮かび上がらせるような人事をしている。

https://www.zakzak.co.jp/article/20220202-RJGAEZ4OGBO47KIV4D7C3SRE7E/