米国の利上げで今後もっと苦しくなる。投資銀行家・神谷秀樹氏による「孫正義の借金はもう限界」(「文藝春秋」2022年7月号)を一部転載します

経営者の真価が問われる

 ソフトバンクグループの米国預託証券は、昨年2月に47ドルと最高値を付けていたが、この5月には最安値が17ドル割れと約3分の1まで落ち込んだ。決算説明会で会長兼社長の孫正義さん(64)は、今は「新たな投資に能天気に回す」のは控えめにすると「らしくない」ことを言い出し、「守りを固め、現金を手厚く手元に持つ」と宣言するしかなかった。歴代2位、1兆7000億円もの大きな損を発表したのだから当然だろう。

 孫さんの会社は世界中の投機家と金融機関からお金をかき集め、孫さんが選んだ“有望企業”に投資する投資会社を標ぼうしてきた。こういった会社は、株価が好調のときはどこでも順風満帆だ。だが、現在のように米国が金利を上げる局面になると必然的に株が下がるため、ほとんどの会社がピンチに陥る。アメリカのヘッジファンドの中には手仕舞いするところも出てきた。経営者の真価が問われるのはこういう時だ。

 対照的なのは、一時評価を下げていた「オマハの賢人」ことウォーレン・バフェット(91)で、ここに来て評判が再び上がっている。ここ数年ナスダック総合指数の上昇に比べ、彼が運営する持株会社バークシャー・ハサウェイの株価は冴えなかった。市場はバブっており、投資機会に恵まれず現金を貯めこんでいたからだ。しかし4月に入って市場全体の株価が大きく下がる中で、同社の株価は持ちこたえナスダックを上回った。保有する株が大きく下落することなく、常に穏やかに上昇してきたからだ。株の値下がりを受け、バフェットはシティグループをポートフォリオに加えた。

 孫さんの苦境に拍車がかかるのは、投資家に高利のリターンを約束し、金融機関からも借金して運用額を膨らませているからだ。サウジの皇太子からの投資は7%の利回りを保証しており、このレベルの金利になるともはや借金と同じだ。

 孫さんはバフェットとは正反対の人で、ナスダック市場の空前の株価上昇を前にいてもたってもいられなかった。20年11月から、170億ドル(約2兆円)もの上場銘柄を買い集め、「ナスダックのクジラ」と呼ばれるほどの大規模のファンド(ソフトバンクGの子会社SBノーススターのこと)をはじめた。ところが、そのナスダック市場は年初から3月末まで1600ポイント下落し、さらに4月から現在までにその2倍以上も下げた。SBノーススターはこの4月、52億ドルも損を出して清算に追い込まれてしまった。

ほうぼうから借金しまくり
 日本ではあまり報じられないようだが、ブルームバーグやフィナンシャルタイムズなど欧米メディアでは、この春、孫さんの話題に事欠かなかった。「金策」に走り回っていることがたびたび報じられたのだ。

 まず、ソフトバンクGが運営するビジョンファンドの株を担保に入れた。アポロというハゲタカファンドのグループからはすでに40億ドル借りていたが、さらに同じグループから3月に高金利で11億ドルの追加融資を受けた。これでアポロからは合計51億ドル(約6500億円)借りることになった。

 つぎにヤフーの運営会社であるZホールディングス株を子会社から借り受け、株券貸借取引で1000億円を調達した(これも3月)。Zホールディングス株を実質担保にしたということだが、この株を保有するのはソフトバンクG50%出資のAホールディングスだから、普通のやり方ではない。

 そしてついにソフトバンクGが保有する残り少ない「虎の子」英アーム株も担保に入れた。320億ドルで購入し、600億ドルの評価で公開したいとしていたこの会社の未公開株を担保に、JPモルガンやゴールドマン・サックスといった世界11の金融機関から80億ドル(約1兆円)借りたのだ(これも3月)。

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https://news.yahoo.co.jp/articles/9032416efe45daeb6d0c5b20266e823c6ea8a125?page=1