■地上波でなくオンラインの“ニューメディア”に勝機を見いだす
17年発売のアルバムの隠しトラックに収録された『海(SEA)』の歌詞には、放送でカットされたことが数え切れないくらいあって、誰かの穴埋めをすることが俺たちの夢だなどと、無名時代の哀しさが表現されている。このような環境の中で、パン・シヒョクは地上波での大手事務所のアイドルとの競争に勝算がないということにいち早く気付き、主流メディアではなくニューメディアを活用したオンライン戦略に集中するようになる。

BTSはデビュー前の11年からTwitterとブログを始め、YouTubeやネイバーのVライブ(ファンとリアルタイムでコミュニケーションするライブ配信アプリ)などの動画チャンネルを開設し、自ら情報を発信してファンを作っていった。

BTSは、複数のニューメディアを巧みに使い分けた。Twitterには簡単な挨拶を中心にアップロードし、YouTubeでは公式映像と共にメンバー個人が撮影・編集した映像が公開される。Vライブではリアルタイムでファンたちとチャットする。これらを通じて、デビュー前の練習生時代のトレーニングの様子や、年頃の少年らしいイタズラをしあう姿など、ありのままを伝えた。

■平凡な少年たちが世界のスターになるドラマをファンと共有
既に有名になったアイドルグループではなく、どこにでもいるような平凡な少年たちの姿は、同じ年頃の人たちの心を動かし、「ARMY」(後述)という忠誠心の強いファンを作る土台となった。練習生時代を経てデビューを果たし、世界的なスターに成長していく成功ドラマは、オンラインを通じてファンと共有された。やがてBTSとARMYは単なるアーティストとファンの関係ではなく、家族や兄弟のような深い絆を持つようになったのだ。

BTSは、今もなおデビュー当時と同じようにニューメディアを通じてファンとのコミュニケーションを図っている。活動休止時期にも「餌(トクパプ)」と呼ばれる動画や写真などのコンテンツを発信し続けた。YouTubeに開設されたチャンネルでは、独自のリアリティ映像、撮影現場のエピソード動画、コンサートツアーのドキュメンタリーなどのコーナーを設けている。
前述の「Vライブ」に加え、メンバーの旅行記、メンバー自ら製作に参加するリアリティ・バラエティなど多彩なチャンネルも展開。このようなトクパプは活動休止中もファンの離脱を防ぎ、新しいファンを流入させる効果があった。
21年3月に韓国の地上波放送のSBSが放送した「伝説の舞台アーカイブK~K-POPはいかにして海を渡ったのか」というドキュメンタリーで、パン・シヒョクはBTSの成功要因の一つにニューメディア戦略を挙げた。
「私たちが望むコンテンツを私たちが望む方法で提供し、人々がより長い時間をかけて楽しめるようにするために、ニューメディアに集中した。このような明確な戦略的判断で、アーティストの真の姿を見せることができました」

■BTSの成功を支えた「ARMY」が持つ意味
BTSの成功を考える際に、熱心なファンである「ARMY」たちの存在は外せない。この呼称にはいくつか意味があって、「Adorable Representative MC for Youth(若者を代表する魅力的なMC)」の頭文字をつなげた言葉であったり、文字通り軍隊を意味する「ARMY」であったりすると言われる。ご存じの通り、BTSの韓国語名は「防弾少年団」だ。銃弾のように降り注ぐ社会的偏見と圧迫を防ぎ、自分たちの音楽と価値を守り抜くという意味が込められているのだが、ファンは彼らBTSを守る軍隊(ARMY)だというわけだ。