日本人2人を含む154人が死亡する事故が起きたソウルの繁華街「梨泰院(イテウォン)」とは、どんな街なのか。日本では人気ドラマも影響して若者が集うオシャレな街のイメージで伝えられているが、元駐在員は「10年前はもっとディープで危ない街だった」と語る。日本人にとっては古くから、「エスコートアガシ」と呼ばれる高級娼婦との出会いの場として有名だった。

もっとディープで怖い街だった
 梨泰院はソウル駅から南に2キロほどの距離にある外国人街である。近隣には大使館も多い。

「そばの在韓米軍基地で働くアメリカ人の遊び場所として栄えてきました。クラブやバーが林立し、この一帯は英語も通じます。夜になると妖しいネオンのもとに、さまざまな人種の外国人が集まってきます」(元駐在員)

 日本の若者にはNetflixドラマ「梨泰院クラス」の舞台として知られる。若者が復讐のために飲食店を起業し、成功を目指して仲間と奮闘する物語だ。今夏、日本でも「六本木クラス」(テレビ朝日)として竹内涼真主演でリメイクされた。だが、先の元駐在員は首をかしげる。

「日本では外国人街ということで六本木が引き合いに出されますが、ちょっと違うかな。10年くらい前まではもっとディープで怖い街だった。酔っ払った女性がアフリカ系の黒人に襲われたり、ドラッグが蔓延していることで問題になっていた。米軍の憲兵がいつも見回りしていました。残忍な殺人事件が起きたことでも有名です」

◆梨泰院殺人事件

 1997年4月にハンバーガーショップで発生した「梨泰院殺人事件」である。在韓米軍兵を父親に持つアメリカ国籍の少年(当時17)が、客として店を訪れていた面識のない韓国人大学生(当時22)をトイレ内で刃渡り9.5センチのナイフで刺殺した。だが、初動捜査がずさんだったために容疑者の少年は無罪判決を受け、母国に逃亡してしまう。

 2009年にチャン・グンソク主演の映画「イテウォン殺人事件」が公開されたことがきっかけで、世論が沸騰して警察は再捜査を開始。15年に容疑者は犯罪人引き渡し条約に基づいて米政府から身柄を引き渡され、17年に懲役20年の有罪判決を受けた。

「ただし、街の中に韓国人がまったく入らなかったわけではありません。米軍目当ての若い女の子たちがクラブでよくたむろしていた。西洋文化に興味がある若者たちの遊び場でした。そしてここ数年のハロウィーンブームを受けて、急に若者たちが押し寄せるようになったのです。ソウルでハロウィーンと言えば、ここ以外の街を誰も思い浮かべません。日本なら渋谷だけでなく、秋葉原や新宿でも仮装している人が見受けられるでしょう。だから一箇所に10万人が押し寄せるパニックが起きたのです」(同)

 しかも、渋谷とは到底比較にならない小さな街だというのだ。

◆日本人出張族の遊び場だった

「車が行き交う表通りはありますが、メインとなるのは『世界料理街』と呼ばれる500メートルほどの裏通りだけ。その道を目指して何万人もの大衆が押し寄せたらどうなるか」(同)

 スクランブル交差点や道玄坂、センター街など、駅を中心に円心状に街が開けている渋谷とは比べものにならない混雑が起きていたのである。

 ちなみに梨泰院と言えば、かつては日本人男性の遊び場としても知られていた。

「高級娼婦を1日貸し切れる『エスコートアガシ』の呼び場所として、日本人出張族がよく通った地域でした」(同)

 アガシとは「未婚の若い女の子」という意味。「キーセン遊び」と呼ばれた芸者遊びの簡易版だ。カラオケで気に入った女性に5~6万円払えば、一晩中連れ出すことができる。ホテルに直行してもよし、カジノに連れ回す日本人も多かった。

 梨泰院には、こうした女性を呼び寄せる日本人男性向けのカラオケスナックが10店舗ほどあったが、コロナ禍で壊滅してしまったという。

デイリー新潮編集部
11/1(火) 12:03配信
デイリー新潮
https://news.yahoo.co.jp/articles/75822c7773f98cb9315f6c2258bcbb299ffc8cd3