餓死を恐れて封鎖から脱出、凄惨な事件も続出

 10月22日に閉会した第20回中国共産党大会後、中国ではゼロコロナ政策がますます徹底され、そしてますます暴力的になっている。

 ユニバーサル・スタジオ北京や上海ディズニーランドでは、それぞれ10月26日、31日に突然閉鎖が発表された。中にいた数万人の観光客は全員PCR検査を受けさせられ、陰性でなくては外に出してもらえず、全員が外に出してもらえるまで一晩かかったりした。園内には幼い子供、家族連れもいるが、容赦はない。

 だが、こんなのはもはや厳しいうちに入らない。鄭州、武漢、広州では、党大会前に増して厳しいロックダウンと全民PCR検査が繰り返されている。チベット自治区のラサはすでに80日以上、新彊ウイグル自治区イリでは90日以上のロックダウンが続き、住民の中に餓死者が出ているらしい。また、大量の家畜の世話ができないために安値で売り払われたり、餓死したり、中には家畜も「隔離」措置を受けたりしているという。

動画が拡散した3つの凄惨な事件

 10月8日から始まった河南省鄭州市のロックダウンではいくつもの凄惨な事件が起きた。たとえば、10月23日には3つの大事件が、動画の拡散によって目撃されている。

 1つは、鄭州市のアパート17階の居宅から出ることを禁じられた母親が高熱の子供のために医者を呼びに行こうと、手製のロープを使ってベランダから降りようとしたところ、ロープが切れて墜落し亡くなった事件。

 もう1つが、鄭州市港区のフォックスコン(ホンハイ)従業員用のアパートで従業員が防疫職員をナイフで殺害した事件。防疫職員はアパートの外に出ようとした従業員を押しとどめようとして殺害された。

 この殺人事件は午後1時に発生したが、その夜、このアパートではフォックスコン従業員と、アパートを封鎖中の防疫職員らとの大乱闘が起きている。理由は封鎖後に食事や生活物資の供給もなく、また外出のために必要なPCR検査を実施する検査員も派遣されず、ただただ閉じ込められることに恐怖を感じた従業員が封鎖を突破しようとしたらしい。この動画はフォックスコン従業員の家族が投稿したものだった。

 3つ目の事件は、鄭州市白墳区の封鎖中のアパートのベランダから女性のバラバラ遺体が投げ捨てられた事件。この事件は、バラバラ遺体がアパート上層から降ってきたという写真がネットで拡散されているだけで、詳細は不明。だが、ロックダウンのストレスに耐えかねて住民がガールフレンドを殺害した事件が他にも発生しているので、同様の事件ではないかと見られている。

(略)

 ところが、その期待は完全に裏切られ、ゼロコロナ政策はますます過酷に暴力的になった。それはなぜか。

 1つ考えられるのは、上海市トップの李強の政治局常務委員への出世があるのではないか。李強は今年(2022年)3月から6月にかけて、多くの上海官僚や感染症専門家の反対意見を押し切って、徹底したロックダウンを実施した。このため第2四半期の上海市経済成長率は前年同期比マイナス13%に落ち込み、社会は動揺し、大混乱を来した。だが、李強は出世し、来年3月には首相の任に着くとみられている。この人事が各地方官僚トップに誤ったメッセージを送ったかもしれない。官僚出世の早道はゼロコロナを徹底するのが一番だと。今までは経済成長率が地方官僚の中央への出世の第一条件であったのが、もう経済は重視されないのだ、と。

 習近平も、ゼロコロナ政策をゆるぎなく堅持することが絶対的に正しいと一度言ってしまった手前、この流れにブレーキをかけることができないのかもしれない。

中国人民にとっての大厄災に

 だが、もう1つの見方がある。それは、権力を掌握したという自信をまだ持てない習近平が、地方の官僚たちが自分の敵か味方かを見分ける判断材料として「ゼロコロナ政策への忠実度」を見ようとしている、という可能性だ。

 これはなかなか恐ろしい。つまり、たとえ不条理な政策であっても習近平の命令なら率先してやるかどうかを、習近平は敵味方の基準にする。人民を苦しめ経済を悪化させる官僚ほど習近平は味方と認め、人民のためを考える官僚はパージされていく。

 実際、官僚にとって、これは最も頭を使わずに出世できる方法だ。高い学歴も高い行政手腕も必要ない。だから地方官僚たちは、上層部に上げるリポートでゼロコロナを誉め讃え、肯定する者だけになる。

 習近平はますますゼロコロナに自信をもち、継続し、それは実に長い「闘争」になるかもしれない。なにせ、オミクロンの後にはケルベロスやグリフォン、バジリスクといくらでもコロナ株が登場し続けてくるのだから。

全文はソースで
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/72560