J・バイデン(Joe Biden)大統領が首脳会談を機に、韓国を日米韓の軍事協力体制に引き込んだ。だが、直後に尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は習近平主席に会い、米国の言う通りにはならないと約束した。迷走する隣国を韓国観察者の鈴置高史氏が読み解く。

◆米国側に押しやった「北の核」

鈴置:11月13日、カンボジアで開いた日米韓首脳会談。韓国で「画期」と評されました。米中等距離外交を続けてきた韓国が一転、米国が唱える中国包囲網に加わる姿勢を打ち出したからです。

 象徴的な動きは日米韓の3国軍事協力に踏み切ったことです。文在寅(ムン・ジェイン)政権は中国に恫喝され、米国が要求する3国軍事協力を拒否してきました。

 韓国の変化は保守の尹錫悦政権に代わったためでもありますが、本質は北朝鮮の核武装が現実のものとなったことにあります。

 保守系紙、東亜日報の社説「北朝鮮を庇護する中国、韓米日『3国安保』の標的を自ら招くだけだ」(11月14日、日本語版)は「画期」を謳いあげました。

(中略)

◆習近平にクギ刺したバイデン

――北朝鮮の相次ぐミサイル演習と、迫る核実験が米国側に押しやった……。

鈴置:次の核実験は弾頭の小型化が目的と見る向きが多い。小型化――つまりミサイルに搭載可能になれば韓国は、そして日本も北の核の脅威に日常的にさらされるようになります。米国は日韓を同盟につなぎとめるためにも「北の核」に強い姿勢で臨んでいます。

 日米韓の首脳会談後に発表された共同声明「インド太平洋における三か国パートナーシップに関するプノンペン声明」(外務省仮訳)で、「首脳は、北朝鮮による核実験は、国際社会による力強い確固たる対応により対処されることを確認する」と北朝鮮に強い警告を送っています。

 翌11月14日、インドネシア・バリ島での米中首脳会談の席でも、バイデン大統領は習近平主席に対し強度の警告を発しました。バイデン大統領自身が会談後の会見で明らかにしています。

(中略)

「長距離ミサイル・核の実験をすべきではない、と中国は北朝鮮に明確に伝える義務がある」と習主席にはっきりと伝達した、とバイデン大統領は語りました。

◆次の核実験で対北軍事行動か

 さらに――ここからが注目すべき点なのですが、「もし核実験をしたら米国は[米国と同盟国の]利益をより確かに守るため、相応の措置をとる。それは中国に直接向けるものではないが」と習主席に伝えた、と述べたのです。

 何人かの専門家が「相応の措置」とは軍事行動を意味すると受け取りました。ポイントは「中国に直接向けるものではない」というくだりです。

 対北経済制裁の強化を意味するのだったら、そういう言い方にはならない。北朝鮮をかばう中国に対して経済制裁を発動する可能性もありますが、その際にも「直接向けるものではない」とは言わないでしょう。

 軍事行動を考えているからこそ「北朝鮮を攻撃するが、中国は攻撃しない。これを誤解するな。北を軍事的に助けて米中戦争に拡大するな」というメッセージを中国に送るため、バイデン大統領はこの表現を使ったと考えられるのです。

 そもそも対北経済制裁は使い尽くしていて、北の核武装を防ぐには核施設を攻撃して破壊するか、体制を崩壊させるしかない、と見る専門家が増えています。緊張の高まった2017年にも、米国は北朝鮮の核施設への先制攻撃を検討しました。同時に金正恩(キム・ジョンウン)総書記も空爆で暗殺する計画だったと見られます。

(続く)

11/17(木) 17:00配信
デイリー新潮
https://news.yahoo.co.jp/articles/9fd1b0cadb523e9c16547665145d4b3a3aa24dbd